4話 真相
病室に帰ってきた八幡直弥は、まず様々な検査を受けた。
基本的には聴診や触診、レントゲンなど簡単なものが多かったが、血液検査ではやはり大幅に時間がかかった。
まず普通に採血され、手慣れた手つきで針を刺した部分に丸い絆創膏を貼り、そこでじっとしているよう指示された後、医師は採った直弥の血を持って、診察室の奥に消えた。
言われたとおりにじっと座っていると、しばらくして医師が引っ込んでいった奥の方から数人の話し声のようなものが聞こえた。
特にすることがなかった直弥は、うっすら聞こえるその会話に聞き耳を立てる。
「、、、本当に、あり得るのか、こんなこと」
「実際にLOD検査でどっちの反応も出てる。つまりそうでないとこれはおかしいのよ。」
「単に何らかの不具合が起きたんじゃねぇのか。」
「今まで彼に同じ検査を6回してる。でもすべて同じ結果が出てるのよ?しかもわたしたちで試しても正常反応だし、これ以上はどうも、、、」
「いやしかし、、、」
その後も医師たちによる押し問答が続く。直弥はその間、四阿庸平に言われたことを頭の中で反芻していた。
***
「、、、本当に、お前は魔族と人間の混血なのか、、、?」
四阿は困惑したようにそう低くつぶやく。
直弥は驚きで声すら出なかった。無論、混血の自覚などない。両親もどう見たって人間だった。言うまでもなく、あの異形のような姿ではない。
四阿はなにか勘違いしているのではないか、将又単純に、彼が言ったことを自分が聞き間違ったのではないか、そんな考えが頭をよぎったりもしたが、すぐに否定できた。今のは一言一句正確に聞き取った。
だとしても謎が深まる。だが、一つの可能性が頭をよぎった。
「、、、自覚は、ありませんけど、もしかして、、、俺らの両親のどちらかが人間に化けた魔族だったって、ことですか」
「、、、明言はできない。お前の母親の遺体はいま日本政府の検視下に置かれていて、現在も引き渡し交渉の最中にあるが、最短でも、返ってくんのは今から3、4日後だろうな。父親の方は、、、残念だが、校舎の火災と崩壊で、骨すら見つからなかった。」
「、、、」
不安と、表現しがたい絶望感がじんわりと胸に広がる。かといって、意志の弱さを今、四阿に悟られるわけにはいかない。
直弥は続けた。
「それは、楓もなんですか?その、魔族との混血ってのは。」
「そこが俺らが一番疑問に思ってるとこだ。彼女の方はなんら反応がない。つまり、まず間違いなく人間だ。だがお前はどうだ。何度検査しても見たことない反応しか出てこない。どう考えても異常としか思えないんだよ。」
「検査、、、?」
「LOD検査。living or demon の略、まあ要するに人間か魔族かを判断するための検査だ。」
「つまりその検査で、どっちの反応も俺から出たってことですか」
「ああ、はっきりとな。」
「そんな、、、で、でも、、、!」
「わかってる。反応を見るに、本当に何も知らなそうだしな。」
そういった四阿に、直弥はこう告げた。
「、、、俺は、もう自分のことも、あなたが何者で、何を目的にしているのかすら、わからないです。」
四阿は迷うような仕草を見せた。少しの間の後、ゆっくり口を開く。
「、、、わかった、負けたよ。この際、隠し事はなしだ。」
「、、、ほんとですか!?」
「ただ、だ。この先のこと聞くのは自己責任。どうなろうと俺は干渉しないからな。」
「、、、覚悟は、できてます。」
それを聞いた四阿は静かに笑い、そして冷静に語りだした。
まず、四阿は魔族とはなにか、について語った。
そもそも、世界には最初に2つの対になる存在があったそうだ。
その2つの存在の名はそれぞれ神族、鬼族であり、それぞれ「創造の力」「破壊の力」という2つの対になる力を司り、人間の言う天国、地獄に住まう。
103億年ほど世界の調和を対の力によって保っていたが、約35億年前に「創造の力」を持っていた神族がその力で「破壊の力」を創造してしまい、調和を破られてしまった鬼族側は激昂し「創造の力」を破壊しようとした。
それを恐れた神族は鬼族に「創造の力」を分け与え、調和を保とうとした。
しかし鬼族側は神族側が「破壊の力」でその力自体を破壊しようとしなかったことに対して疑問を抱き、自分たちを破滅させて神族だけで調和を保とうとしているのではないかと考え、危機感を抱いた鬼族は与えられた「創造の力」を使い、魔族と魔族の世界、そして「破壊の力」の一部を崩して魔術というものを作って、万が一のための自らの先兵にした。
それに気づいた神族も生族と生族の世界、そして人間にだけ「創造の力」を崩して人術を作り、ここで生族と神族、魔族と鬼族の2つの種族間で対立構造が生まれた。
しかし長年、神鬼族間で目立った衝突はなく、その長い年の中で生族と魔族は全く違った成長をしてきた。
魔族は鬼族の徹底的な管理の元で成長し、生まれてくるすべての魔族には魔術が付与されるが、代償として知能を持たない個体が生まれてしまう。
しかし、生族は神族が独自の成長方法として「進化」という仕組みだけをあたえて干渉しなかったため、生族の括りでも全く違う大きさや風貌、帰属意識が生まれ、その進化の過程で生まれた人間はすべての生まれてくる人間が爆発的な知能を得る能力を得て、生族のトップにたった。しかし代償としてすべての人間に人術が与えられるわけではない。
また、魔族と生族、主に人間とでは戦う理由も違う。魔族はあくまで鬼族のためで魔族が滅ぼうが関係ないという考えだが、生族、特に人間は自らの種族が滅びるのを防ぐため、時には同じ生族内ですら絶滅させてしまうほど生存本能が高い。
だがあくまで生族でも頭一つ抜けて人間が賢いというだけで、族内の長的種族ではない、と四阿は語る。
「生族の本当の長は、まあ一言で言えば木だ。」
「木?」
「そう、木。名をユグドラシルと言って、語源は言わずとしれた北欧神話。まああれに書かれてるほどではないけどな。」
「ユグドラシル、、、あんまり聞き馴染みがないです。」
「だろうな。そんじゃそこらじゃ絶対植生してないし、そもそも世界に4本しかないし。」
「4本?!、、、それって絶滅危惧種じゃ、、、!」
「大丈夫。全部樹齢、億はくだらねぇから。」
「お、億、、、?」
「まあそれに関してはその目で見たほうが圧倒的に早い。今は無理だけど。」
「は、はぁ、、、」
淡々とそう続ける四阿に少々気圧されながらも、直弥は必死に理解した。いや、理解したというより、無理やり自分に理解させた、と言ったほうが正しいのだが。
四阿は続ける。
「さて、、、じゃあ次は、さっき俺が言った八間について説明しようか。」
「はちげん、、、」
「さっき説明した通り、ここはADF、対魔連邦と呼ばれる組織だ。」
「はい。」
「詳しく説明してるときりがないから端折るけど、その中に防衛部、、、別称でオリオンって機関がある。」
「防衛部、、、軍隊ってことですか。」
「まあそう捉えてもらっていい。オリオンには主に4つの部隊があって、それぞれ白虎隊、朱雀隊、青龍隊、玄武隊と呼ばれてる。」
「あ、その左の耳朶のそれ、、、」
彼がつけている数あるアクセサリーの一つ、亀に蛇が巻き付いたような絵の描かれているピアスを見ながら直弥はそうつぶやく。
四阿はそのピアスを撫でるように指で触りながら答えた。
「ああ、これ気づいてたのか。俺は玄武隊所属だから玄武の絵が描かれてる。かっけえだろ」
「ま、まぁ、、、」
「んだよその反応。まあいいが、、、んで、部隊のトップにはそれぞれ四堂と呼ばれるうちの一人が配属され、ナンバー2に八間と呼ばれるやつが二人ずつ配備される。そのうちの一人が俺ってわけだ。そして一般隊員はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅴ型の順に階級分けされ、1部隊に約50000名の隊員がいる。」
「え、じゃあ四阿さんは結構偉い方、、、?」
「まあ、こう見えてな。そして、俺の部隊、玄武隊のトップに四堂である佳じ、、、えーと、日下部さんがいる。」
「えっ、日下部は、四堂、、、?」
「、、、ややこしいから、桜田さんって呼んでくれねぇか。あの方が、日下部は偽名で本名は桜田風音って言ってたの、覚えてないか?」
『最後に1つだけ、、、わたしの名前は桜田風音。目を覚ましたら私が誰なのか聞くといいよ』
直弥の頭の中に、忘れかけていたその言葉が浮かぶ。
「あのときのあれって、、、そういう意味、だったんだ。」
そうつぶやきながら、ある疑問が頭をかすめた。
「、、、でも、そんな偉い人が、なぜうちの高校なんかに、、、?」
「それを語る上で、この写真を見る必要がある。さっきも聞いたが本当に、その覚悟はあるのか?」
そう言いながら、先程頑なに見せるのを断って眼鏡の女性に手渡した写真を、また彼女から受取り試すような目つきで直弥を見据えた。
無論、直弥はこう答えた。
「、、、さっき言ったとおりです。覚悟はできています、と。」
しばらく、直弥と四阿は静かにお互いを見つめ合った。張り詰めた空気が数十秒、その部屋を満たしたが、突然四阿が口元を緩め、優しげな口調でまた話しだした。
「、、、ふっ、お前にゃ愚問だったな。わかった、そこまで言うなら聞かせてやる。あの日までに何が起こっていたか。」
そして彼は、あの日について語りだす。
「、、、最初は、お前を殺すつもりだったんだよ。」
続く、、、




