表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魔闘諍  作者: ゆっけ
第壱章
10/112

9話 協約

「最上、シア?」


 八幡直弥は四阿に向かってそう問う。彼らがいる部屋からガラス越しに見えるその奥で、妹である八幡楓が顔に痣を浮かべて眠っていた。


 いま直弥は、あの日鳴矢高校周辺で起きたことを実際の写真を見ながら事細かに説明されていた。まとめれば単純に、魔族と呼ばれる化け物によって引き起こされた大規模襲撃で大勢の死傷者が出たものの、結果的にその計画は失敗、魔族は死亡した。


 だがそれは追い詰めた日下部―――本名・桜田風音が手を下したわけではない。突然何者かによって襲われ、最後はライフルに頭を砕かれて死んだそうだ。


 その何者かとして最有力候補なのが、魔族が死ぬ間際に叫んだ「最上シア」という名の人間(魔族?)が口封じのために殺した、というものだ。


 手渡された写真を握りしめ、胸に仄かな吐き気を感じつつも直弥は四阿の話を真剣に聞く。


「ああ、そいつのお陰であの事件、多くの謎が残されちまった。特にお前関連。」


「でも、その魔族の狙いは確実に俺っていうことは分かってるんですよね。」


「だからこそお前ら二人をこのADFで一時的に匿ってる。もしかしたらいい交渉材料になるかも、ってのがうちの上層部の考えだが、魔族の仲間である疑いがあるお前を野放しにもできないってのも、まああるだろうな。色々理由はあるが、今後の処遇はさっき言った会議で詳しく話しあう。」


「処遇、、、って、これからどうなるんですか。」


「最悪のパターンは佳人卿や俺、お前の妹とともに仲良く死刑。まあ良くても、お前は地上世界には帰れない。」


 もうそれはなんとなく察しがついていた。今更驚くことでもないだろう。帰れたとしても、身寄りは地元とともに尽く消え去ったのだから。


 そうなると死刑を回避して生き残った場合、自分はこれからどのように過ごせばよいのだろうか。監獄の中で一生を終えるのか、将又、、、


「戦うんだよ、俺達と一緒に。」


 心を読んだように四阿がそう言う。驚いて彼と目を合わせると、真顔の四阿もこちらを見つめた。


「お前のその手で、大勢の仇を取れ。最上シアってやつの首を、その手で掻き切ってやれ。」




 ***




 採血が終わり、武装兵2人に連れられて病室を出る。四阿は用事があるとのことで楓の眠る部屋の前で別れたので、今は自身と兵士らの3人しかいない。


 やはり今回のLOD検査も結果は同じだったらしい。診断を行った医師は訝しげに直弥をみつつ、検査は以上とだけ言って病室から追い出した。


 壁も床も真っ白な廊下を2人の兵士に連れられ歩く。リノリウムの上を歩くコツコツという音だけがその空間に響くだけで、そこに会話は存在しない、


 その間、直弥は四阿から聞いたあの日の話を思い出していた。日下部の名を騙った、桜田風音という女の話。魔族と呼ばれたあの化け物の話。そして、自身の謎についての話。


 そのどれもが到底信じられるはずがない話ではあった。だが異形の死骸(あれ)を見てしまった以上、どんな嘘のような話でも本当のように聞こえて仕方がないのだ。


 そしてなによりそれらを確証たらしめたのは四阿の持っていた写真だった。半壊し焼け焦げた校舎、射殺された多数の一般人や生徒、横井亮太の家で撮ったと言われたその凄惨な光景、荒れ果てた故郷の姿、、、すべてが自身に、あれは夢ではないと無慈悲に宣告して、なぜお前だけがと苛烈に責め立てる。


 写真上にいた横井の死体が頭に浮かぶ。彼は彼の母親から出た血の池に浸かり虚無を目に浮かべていて、その目はじっとこちらを見つめているような気がした。錯覚であるはずなのに、考えれば考えるほどそうとしか思えなくなって、しだいに恐怖の感情に似たなにかが自身の胸を締め上げ、不安定な心を突き刺す。


 一行はそのまま階段を下り、そこから2階層下へと下る。(なにせ看板も窓も何一つなかったからさっきが何階かすら分からず、下った先が地下かどうかも知る由はない。) そこからは打って変わり、裸電球の括りつけられた薄暗い廊下に出た。壁際にある部屋も病室などではなく、誰もいない檻だけが並ぶ。


 下ってきた階段から約20メートルほどその薄暗い廊下を歩き、「202」と書かれた檻の前で一行は止まった。兵士のうちの1人が鍵束を取り出し、そこから1つ鍵を取ってその檻を開ける。もう一人の兵が背後から、若干拙い日本語の低い声で言った。


「入れ。」


 直弥は少しだけ困惑してその場に立ちすくんでいると、突然後ろから背中を蹴られ、その勢いに耐えられず檻の向こうへ転げる形で中に入った。


 直弥が入ったと同時に扉が閉められ、直後流暢な英語の会話が聞こえてくる。


 檻の外で兵士二人が英語でなにか言い争っていた。無論直弥はそれが何を言っているかは聞き取ることはできないが、所々聞こえる簡単な単語から、荒々しい真似をするなと言っているのは辛うじて理解できた。


 一通り言い終わったのか、兵士は直弥に向き直る。


「しばらくの間そこにいろ。飯、1日2回。風呂、1日1回。不要な行動、殺す。質問は?」


 片言で、注意事項だけを淡々と話す。彼らが自身を見る目はまるで虫けらを見下すように冷たく、恐ろしい。どこかその目は、あの写真の横井の目に似ているような気がした。


 直弥が無言なのを察し、二人は足早にその場を去って直弥1人きりになった。足音一つしないその静かな空間で彼は座り込み、ただ肩を震わす。


 死者の声が聞こえる。発砲音が耳にこだまする。肉が飛び散る音、数々の絶叫、血と硝煙の匂い。そして気づけば、燃え盛る火から這い出た焼け焦げた肢体が、自身の足を掴み引きずり込もうとする。


 抵抗虚しく炎に引きずり込まれたと思えば、今度は銃を持った大人たちに街中を追いかけ回された。直ぐ側でクラスメイトが撃たれ、額から血を流しながらこちらをじっと見つめる。また直ぐ側で他のクラスメイトも撃たれ、同じようにじっと見つめる。


 見つめられ、見つめられ、見つめられ、見つめられ、見つめられ、見つめられ、見つめられて、


 そして皆、口を揃えて言う。


「「「「「なぜ、お前だけが、、、!」」」」」


 そこではっと正気に戻る。やはり目の前は檻と薄暗い廊下だけだった。さっきのあれは幻聴や幻覚だったことに安堵を覚えるよりも、今まで起きたこと全てが夢ではなかったことへの深い絶望感に苛まれた。


 目が覚めればそこは自分の家で、母さんも父さんも楓も、亮太も先生もクラスメイトも皆みんな、今まで通りの普通の生活を送っている、こんなあたりまえへの望みは、これほどまで遠く儚いものだったのか。


 今の直弥にとってそれはとても理解し難く、どうしようもなくてただただ独り咽び泣くことしかできなかった。




 ***




 四阿は1人、ヨーロッパ式の広くて豪勢な回廊を歩く。


 彼は先程着ていたスーツではなく黒い軍服姿で、皺なくまっすぐに着込んだ詰襟式の服に黒のエナメルベルトをきゅっと締め、同様に黒のストレートパンツと皮の長靴、軍帽もきっちりと被り、胸元に付いている数々の勲章や腰の軍刀は彼の凛々しさをより一層際立たせる。


 周りにいる白い軍服を着た彼・彼女ら兵士は自身の姿を見て驚きつつも、脇にどいて深々と頭を下げる。それを一瞥しつつも先を急ぎ、そのまま大きな城のような建物内へと入った。


 目の前にあった受付で要件を伝え、すぐ横にある階段を駆け上がる。階が上がるにつれ、すれ違う兵士らの胸元の勲章も増えていく。だがその誰もが四阿に敬意を示すことを忘れない。八間という役職の地位がいかに高いかが伺い知れる。


 そして最上階、その階は人気が少なく、静謐な空気が漂う。赤いカーペットが敷かれた床を歩いていると、約30メートルほど奥に両開き式の白い扉が見えた。


 その両サイドには白い制服の近衛兵が佇んでいる。そこまで四阿が近づくと、彼の代わりにその兵士らが代わりに扉をノックする。


 すると中から物音がしたかと思えば、どうぞとただ一言その部屋の中から木霊した。その声に答え、兵士らは扉を開け放ってぴんと直立し、四阿に向かって敬礼のポーズを取った。


 四阿はその兵士らの間を通り抜け、その扉を潜る。そうして足を踏み入れた途端、体全体が紙の匂いに包まれた。


 その部屋の壁のうち、3つは大きな本棚が埋め込まれていて推定500冊は優に超えるであろう様々な本が所狭しと並んでいる。そして最奥の壁だけはガラス張りであり、階下に広がる街全体が見下ろせた。


 そしてそれより手前、四阿から約3メートルほど離れたところにアンティーク調の書斎机と革張りの椅子が置かれていて、そこに1人、深々と腰掛けている人物がいた。


 黒い短髪でパッチリとした目、小さな口や鼻に丸みを帯びた輪郭、華奢な体つきと見た目は完全に10歳前後の子どもだが、その背丈に見合わないような黒のワイシャツや白の背広、ネクタイ、スラックスを身に纏っている。


 虎の描かれた金の指輪が嵌められた右人差し指で器用に万年筆を回しつつ、その人は四阿を見て不敵に微笑む。


「久しぶり、四阿。対面で会うのは何年ぶりかな?」


「約3年ぶりかと、朽宮(くちみや)さ、、、 いえ、狂風きょうふう卿。」


 白虎隊四堂・朽宮言真(ことま)―――通称・狂風は見た目通りの幼気な声でそう問うた。そのまま彼は万年筆を机に置き、椅子にもたれかかる。


「相変わらず生真面目だなぁ四阿は、別にいいのに朽宮で。」


「あなた様がよくても仕来りは仕来りですので。」


「ふーん。 、、、まぁなんでもいいけどさ。」


 そのまま朽宮はもたれかかりつつ、依然笑みを消さずに言う。


「先日の件、お疲れだったね。しっかり休めたかい?」


「生憎、連日報告書の作成に追われていて夜も眠れてません。」


「くはっ、だろうねぇ、あんだけ大変な事なっちゃったら休む暇もないかぁ。」


「まぁ、、、」


「あーでも、頑張り過ぎは良くないよ?今四阿に倒れられちゃ結構困るし。どう?思い切って一週間ぐらい休暇申請でもしてみれば?」


「、、、」


「どうせ休むなら旅行でも行ってきなよ。僕あそこが好きだな、ローマ。サン・ピエトロとか、トレヴィの泉とか、コロッセオとか。あーあと近場で言うならヴェネツィアもおすすめだよ。水上都市ってかなりロマンあるよね〜。」


「、、、狂風卿、俺は雑談をしに来たんじゃ、、、」


「お固いねぇ、もうちょっと会話楽しもうよ。ほら、ちょっとした息抜きだと思ってさ?」


 四阿は無言で朽宮を見つめる。これ以上雑談はしないという意思を感じ取ったのか、彼は笑みを薄め、体を起こして机に片肘を付いた。


「、、、まぁいいや。んで、要件は?」


「はい。狂風卿に一つ、お伺いしたいことがありまして。」


「はぁ。」


「先日の鳴矢高校襲撃事件の際、俺は近くにあったショッピングモールで魔族に操られてた人たちの殲滅に従事していました。」


「、、、」


「その最中、俺の部下である15名の玄武隊隊員らが俺の援護をしにショッピングモール内に入ってきました。」


「、、、」


「しかし俺が見た時には隊員らは12名、つまり3人行方をくらましていました。 、、、もう俺の言いたいこと、分かりますよね。」


 四阿はそう語りつつ、あの日の出来事を思い出していた。


 煙の充満したショッピングモール内、逃げ遅れた避難民や消えた隊員らを探している中、聞こえた悲鳴。


 バックヤードを潜った先にいた英田など複数の従業員と消えた3人の隊員。


 そして彼ら隊員はこう言う。


『、、、キョウフウ(・・・・・)卿からのご命令で、従業員らは武装勢力と協力関係にあるかもしれないから、殺せるだけ殺せ(・・・・・・・)、、、と。』


 キョウフウ。つまり狂風、そう呼ばれている朽宮以外いないと思った。四阿が聞きたかったのは、その真意だ。


 朽宮は薄笑いを浮かべ、何を考えているかわからない表情をしつつ、肘をついて黙って四阿の話を聞いていた。少しの無言の間が流れたのち、彼は軽快に笑う。


「何だそんなことかよぉ。なんかもっとやばいことしちゃったかなって思ってたや。」


「そんなことって、、、一般人を抹殺しようとしてたんですよ?それが、、、」


「だからなんなの?」


 一切笑いの響きを感じさせない、冷たい声だった。そのたった一言だけなのに、その場の空気が極限まで凍りついた。


 彼は依然笑顔を消していない。それがさらに不気味さを際立たせる。本当に彼は、なにを考えているかわからない。四阿は緊張で、背中に汗を浮かべた。


 思わず黙りこくった四阿を見据えつつ、朽宮は続ける。


「たしかにあの隊員は僕が用意した白虎隊隊員さ。君たち玄武を騙すような真似したのは悪いとは思ってる。だけどね、僕が出した命令自体にはなんの後悔もないし、もしまた同じ状況になっても同じような、、、いや、もっと人員を割いて同じ命令を下すね。」


「一体、なにが目的で、、、」


「なに、簡単なことさ。結果的に主犯の魔族がいたのは鳴矢高校だったけど、それがわからない当時の状況下じゃ、虱潰しに怪しいやつ皆殺しにしたほうが圧倒的に効率いいし、仮にそれが全員人間だったとしても、ADFの存在が世間に知れ渡る可能性を物理的に封じ込める。どうにしろこっちの利になるわけだ。」


「、、、」


「四阿、あの事件の犠牲者何人か知ってる?」


 突然の問いかけ。当事者のうちの一人であるため、無論知っている。


「今わかっているだけでも637名。行方不明者も合わせると、800名は優に超えている、と、、、」


「そう、大正解。これはあの日(・・・)以降最大の魔族災害だ。こんな大規模な被害だと、情報統制のうち漏らしはどうあがいても必ず存在する。実際ネットじゃ、玄武隊隊員の姿を写した写真がちょくちょく出回ってる。大手企業には圧を掛けさせそういった情報は即削除させてはいるけど、日を追うごとにその情報に熱が入ってきてて、ちょっとだけ手に負えない状況になりつつあるんだよ。」


「、、、」


「君らが全部悪いとは言わないよ?僕だってこんな大事になるのは予測すらできなかったんだから。でもね、一つだけ言わせてほしいのは君らはあまりにも一般人に対して甘すぎるってことさ。」


「、、、」


「恒田、だっけ?彼に対してあまりにも寛容に接しすぎじゃない?とは思ってたけどね。あとあれ、久佐野都姫って子にも。」


 ゾワッと寒気が走る。その名を知っているのは桜田と自身だけだと思っていた。彼女は以前、魔族が死んだ直後にこう言っていた。


『さっきも言ったけど、ここまでのことを引き起こしちゃった私は多分無事じゃ済まない。だから四阿、あんたには最低でも久佐野都姫って女の子と、前に車に乗せた恒田佑紀って子だけは守ってあげて。その2人だけは、私は誰にも報告してないから。』


 その後彼女はあの赤い目の副作用で眠りにつき、あれから一週間たった今でも目を覚ましていない。玄武隊の運営は八間である自身と豊麗公―――血沼亜沙実に任されているのだが、亜沙美は桜田があの状態なので半鬱状態になっており、実質四阿一人ですべてを請け負っていた。


 そんな中でも二人のことは一切明かさなかった。なのに、なぜ、、、


「、、、なぜ、その名を?」


「まぁ、独自の情報網ってやつだよ。大丈夫、別に危害を与えるつもりはないさ、今のところは(・・・・・・)。」


「っ、、、」


「そんな緊張した顔すんなよぉ、あの子達がなにもしなかったら俺もなにもしないって〜。もーわかりやすいなぁ、くははっ。」


 そう彼は軽快に笑い飛ばす。だが四阿の緊張は解けない。もし彼らが下手な真似をした場合、命の保証はないだろう。その下手な真似とはつまり、ADF関連のことを誰かに話すことだ。


 思わず葛藤してしまう。もしそうなった場合、自分はどうすればよいのだろうか。確かに朽宮の言っていることは理にかなっている。おそらく前の事件の一番の証人といっても差し当たりない二人だ。なんなら今のうちに口封じしておいた方が良いまである。


 だが、桜田のあの目は切実だった。彼女があれだけ感情を出すことはめったにない。だから四阿もその思いが本気であると重々理解していた。


 あの事件から彼女は変わったような気がする。機械的で無感情な人形のようだった彼女が、あの死体で溢れる地獄のような環境下でどこか、悲しみや怒り、そして純粋な殺意など、ちゃんとした人間らしさを度々覗かせていた。


 やはりそれも、あの2人が大きく関わっているのだろう。だからこそ、彼女は彼らを命をとしてでも守り抜きたいと訴えたのだ。恩義が深い上司の願いを無下にするほど、四阿は冷たくない。


 だがそれは、前述した通りADFの方針に歯向かうことにもなる。今はただ、あの2人が下手な真似をしないこと祈るしかない。


「、、、どうした?そんな難しい顔して。」


 朽宮が訝しげに覗き込んでくる。四阿は慌てて顔を正す。


「いえ、別に。」


「そう。 、、、あそうだ、君さ、気づいてる?」


「気づいている、、、?何に関してです?」


「この鳴矢高校事件、例の『ブラッディ・バニィ』のあれと展開があまりに似てるってこと。」


 久しぶりにその名を聞いた。ブラッディ・バニィ事件、あの頃四阿は確か13歳くらいだったはずだ。アメリカのギャング2つを巻き込んだ魔族事件で、たしか当時の玄武隊八間二人が派遣されていたはずである。


 言われてみれば、共通点は多々ある。例えば、ギャング構成員が失踪していたのと同様に、鳴矢高校周辺地域の民間人が多数失踪していたこと。そして、攫われた民間人はブラッディ・バニィ時と同様に、全て死亡が確認されていること。そして、主犯の魔族が謎の死を遂げたこと。 、、、確かに、似てはいる。


「あの事件も結局全容は未解決だし、鳴矢高校事件も、このままじゃお蔵入りになりかねない。ブラッディ・バニィ事件の二の舞だけは御免だ。何よりあの二人みたいに君と亜沙美がなられたら、正直とっても困る。君たちのためにも、、、何より、風音のためにもね。」


 そうか、と四阿は思い出す。あのときの八間二人は、、、


 呆れるように朽宮が微笑む。


「また難しい顔しちゃってぇ。 、、、まあいいさ、じゃ話題変えよっか。」


 彼は声色を変え、明るい声でそう提案した。


「確か君のとこで預かりになってる、、、八幡直弥だっけ?彼は今どうしてるの?」


「、、、つい先程目を覚ましました。大まかな状況説明をしたうえで、LOD検査を始めとした様々な検査をしたのち、今は地下牢にて一旦監禁しております。」


「LODも相変わらずって感じ?」


「ええ。魔族の反応が出れば即処刑に回すのですが、なにせあの反応ですので、、、」


「まあそれでも、本当なら危険な芽は摘んでおいたほうがいいとは思うけど、僕自身彼にはすごい興味がある。 、、、そこで、だ。」


 朽宮は椅子から立ち上がり、こちらへゆっくりと歩み寄ってくる。そして目の前で立ち止まった。


 きれいな灰色の瞳だった。それは明け方の空のような、朝なのか夜なのか曖昧なあの空の色に似ている気がする。そんな吸い込まれそうなその目が、じっとこちらを見据えてきた。


 朽宮は小さな声で、ゆったりと言う。


「僕たち、協力しようよ。」


「なっ、、、」


 それは予想外といえば予想外だった。


 彼の言っている協力とはつまり、四堂八間会議において手を取るということだ。


 四堂八間会議とは、簡単に言えば軍法会議のようなものだ。四堂や八間によって採決がされ、オリオン内における最重要被疑者の裁判などが行われる。


 普段司法関係の業務は四堂や八間ではなく他に専門職があるのだが、あまりにも権力が高い者及びそこでは判断が困難とされた時、代理措置としてこの制度が設けられていた。


 今回それに掛けられるのは、前作戦の責任者である佳人と自身、そして謎の存在である八幡直弥だ。そこでの玄武としての方針は、玄武隊関係者の死刑は絶対回避、というものだった。


 つまりはそこに、朽宮が条件付きで手を貸すと言っているのだ。


「僕にとって八幡直弥はあまり死んでほしくない人間、、、かわかんないけど、まあそんな存在だ。だから僕らは風音や君の死刑にも反対する。だから君たちも、八幡直弥の死刑に反対してほしい。」


 彼の怖いところは、なにを考えているのかまるで読めないことにある。自身にとっては桜田の死刑に反対する味方が増えることほどおいしい話はない。だが、あくまでそれは朽宮言真以外での話だ。彼からの提案となれば必然的に大きな貸しをつくることになるし、何かしら裏があると考えることに何ら不思議はない。


 もし仮に、彼が八幡直弥を使ってなにか大きな事を仕出かそうとしたときに、自身は抑止力に足るのだろうか。考えすぎと思われるかもしれないが、彼と接していれば考えすぎぐらいがちょうどいいのだと容易に気づける、それほど侮れない相手だ。


 しかし事実、味方は喉から手が出るほど欲していた。今ここで断ってしまえば、むしろ痛手なのはこちらの方だ。八幡直弥が死んだところで白虎隊は何ら損害は受けないが、自身や桜田が死んでしまえば玄武隊は大打撃を受け、文字通り粉微塵に崩壊するだろう。


 四阿は渋々と言った様子で、頷く。


「、、、わかり、ました。引き受けましょう。」


「そう言ってくれると思ってた。誓った以上、君たちの死刑は絶対回避させてみせる。ただ問題は、、、」


「、、、佳人卿が目覚めるかどうか。」


 四堂八間会議では、八間を1票分として換算すると、四堂の票はその2倍の効力がある。その状況下、約1週間後に迫ったその会議の日までに桜田が目覚めなかった場合、必然的に不利になってしまう。


「うん。 、、、まあそれはもう僕も祈ること以外できないし、仕方ないけど運任せだね。」


「そう、ですか、、、」


 朽宮は身を翻し、再度席に座る。そして背もたれにもたれ掛かりながら、四阿を見据えた。


「あともう一つ聞きたいことが。これはまた先の話になるけど、仮に八幡直弥の死刑が否決されたら、君なら彼の教育係に誰を据える?」


 それに関しては、もう四阿の中であらかじめ決めていた。十分な経験や知識、戦闘力もさることながら、あらゆる面において確実に信頼でき、そして絶対的な抑止力にもなる。四阿はその人の名を口にする。




「俺なら、玄武隊Ⅰ型戦闘員・熊野璃久を推奨します。」




 続く、、、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ