(番外編)上手の手から
こんにちわ、と言いながら賢人が美術準備室の扉をくぐったとたん、大机の奥の角に顔を寄せ合うようにして座ってなにかヒソヒソと話をしていた七海と早希がびくっと振り返った。
「あ、け、賢人さんこんにちわ」
「ま、まいどです」
なんですか、と顔をしかめていいながら賢人が椅子の上にカバンを置いた。
「そんなに驚いて、また誰かの悪口でも言っていたんですか?」
違いますよ、と七海は口を尖らせた。
「実は、さっきレオナルドくんの『岩窟の聖母』(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e4/Leonardo_Da_Vinci_-_Vergine_delle_Rocce_%28Louvre%29.jpg)の絵を見ていたら、後から来たチイちゃんが、「それ、ラファエロの絵だろ?」って自信たっぷりに言ったんで、ははは、『弘法も筆の誤り』だな、って笑っていたら」
「笑っていたら?」
はい、と七海は頷いた。
「もしこれが賢人さんだったらどうだったかな、って話になって」
「え?ぼくだったら何だって言うんですか?」
顔を見合わせて頷いた七海と早希は同時に賢人を指差した。
「『猿も木から落ちる』」
「『河童の川流れ』」
「だからそれが悪口だといつも言っているのですよ、ぼくは」