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カンショー!  作者: 安城要
189/238

(特別番外編)渦【前編】

ミーン、ミーン、ミーン・・・

うるせえ・・

ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン・・・

ああ、うるせえ・・

ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン・・

うるせえんだよっ!!と足を止めた七海は木の上を指差した。

「てめえらうるせええっ!!八年間土の中にいて昨日やっと出て来てうれしくって騒いじゃって、とか言っても同情しねえからなあっ!!!昆虫食したろかコラアっ!!!」

その声に驚いたのか剣幕に怯えたのかは知らないが、ジジ、という短い鳴き声を残してそのセミは慌てて飛び立って行った。

ふうふうと肩をいからせてセミが飛び去った方向を睨んだ七海は、ハンカチで汗の流れる額を拭いた後辺りを見回した。

まだ午前中の早い時間なのに、アスファルトの道には早くも陽炎かげろうが立ち昇り、本日の酷暑を視覚的にも見せつけてきた。

ちくしょう、と再び歩き始める。

家の地番を聞いてくればよかった・・・

賢人が手書きの地図をくれたのと、いざとなれば電話すればいいや、という油断から、家の地番を聞いておくのを忘れたため地図アプリが使えない。

先日部活中、遅れてやってきた賢人が突然、ちょっといいですか、と七海を呼んだ。

ほい、と言いながら振り返った七海に、今度の土曜日、お暇ですか、と賢人が聞いた。

「別に用事は入っていませんが、何か部活に関して労働や動員が入るのであれば、おそらく用事が入ると思います。あ、また池上のデコちゃんとボコちゃんでも来ます?」

いえ、と賢人は笑いながら手を振った後、軽く頷いた。

「昨日、たまたま知り合いの人に部活の話をしていたら、是非サキちゃんに会ってみたいということで、一度お伺いを立てて欲しいと頼まれまして」

「そいつがKくんと同じ趣味の持ち主であれば、とりあえず〇して、埋めておいてください。そいつの墓参りならお付き合いします」

「いえ、彼と同じ趣味の人ではありません」

「じゃあどういう趣味の持ち主なんですか?」

「趣味は持っておられますが、今サキちゃんの言った“趣味”とは違う意味の趣味です」

七海が隣の椅子に座っていた早希の腰を肘で突き、もしかして“存在しない”せーぶつ趣味の持ち主かもしれないぞ、やっぱり21世紀はチイちゃんの時代だな、と言うのに、違います、と賢人がため息をついた。

「ぼくと直接の血縁関係はありませんが、ぼくの遠い親戚に当たる結構年配のご婦人なのです。絵に興味をお持ちで、サキちゃんの話をしたら、是非サキちゃんに見て欲しい絵あると。その絵を見て感想を聞かせて欲しいとのことでして」

「絵って、高価な絵ですか?」

まあ、と賢人はそこで少し言葉を濁した。

「高価なことは高価な絵ですが」

「金持ちのコレクション自慢でしたらお断りです。あの女は絵に酸をぶっかける発作が出る持病が有ります、とでも言って断ってください」

いえ、と賢人は更に言いにくそうに言った。

「高価は高価ですが、そういうのとはちょっと違うんですよ」

なんか歯切れが悪いっすね、と七海はジト目で賢人を見た。

「なに企んでるんですか?」

企んでるなんてまさか、と賢人は慌てて手を振った。

「予備知識なしで絵を見て、素直な感想を聞かせて欲しい、と頼まれてるんですよ」

実は、と賢人は頷いた。

「ぼくも昔、絵画に興味があると伝えたら、同じように、その絵を見て感想を聞かせて欲しいと頼まれたことがありまして」

んで、とジト目のまま七海は賢人を見つめた。

「その感想は?」

「それを言っちゃったらダメな話なんですよ」

そこで賢人は少し媚びるような声で七海に身を乗り出した。

「謝礼は出ませんが、美味しいお茶とお菓子くらいは出ますよ。お金持ちですから、普段食べたことがないようなのが」

しょうがないわねぇ、と言いながら、耳の後ろに長い髪かけながら三輪が澄ました顔で美術準備室に入ってきた。

「私も暇じゃないんだけど、そういう事情なら仕方ないわね」

あんたは呼んでねえよ、出てけよ。



一体どんなけでけぇんだよ、この寺・・・

駅を出てこう行って、こう曲がって、と賢人が描いてくれた手書きの地図をぐるぐる回して見ながら七海ははあはあと歩き続けた。

お寺の練塀みたいなのが見えたら、それに沿ってずっと歩いた角のすぐ先です、と賢人が言ったその練塀が異様に長い。

本当にここで合ってるんだろうな?

そこで七海は、向こうからやってきた散歩中らしい初老の男に気づいた。

すれ違ってから、ふと顔を上げた七海は振り返り、老人の背中に手を伸ばした。

「あいや、しばらく!」

立ち止まった老人が不思議そうに振り返った。

全身で老人を振り返った七海は老人に頷きかけた。

卒爾そつじながら道をお尋ねしたい」

75年生きているがそんな風に道を聞かれたのは初めてだよ、と呟くように言いながらも老人は数歩戻って七海に向かい合って見下ろした。

「それで、どこを探しているんだい?」

おありがとうございます、と最敬礼の角度に頭を下げてから、七海は老人を見上げた。

「この近所に住んでいる、白石さんのケンちゃんという子を探して来たのですが」

ケンちゃん?と老人はわずかに顔をしかめて辺りを見回した。

「さてなあ、この辺りは白石さんは何軒かあるからねえ」

「さいですか」

そこで突然老人は道を走ってきた軽トラックに向かって手を振った。

先に老人に気づいて低速で走っていたのだろうその軽トラは七海達の真横でぴたりと停まった。

中年の男が助手席側に体を伸ばして窓を開けた。

そしてその不自然な姿勢のまま老人を見上げる。

「どうした?まさか、その子孫か?」

「まさか」

まさかの二連チャン、いただきましたーー。どういう意味の“まさか”だよ。

迷子らしいんだが、と言った老人に、いーえ、ただ道を聞いただけの子です、と心の中で訂正しながら、七海は黙って成り行きを見守った。

「この辺りで、白石さん家のケンちゃんて小学生の子知らないか?」

何故小学生?

ケンちゃん?と一瞬不思議そうな顔をした中年は、しばらく考えた後、老人を見た。

「確か本家の三人目がそんな名前じゃなかったか?」

ああ、と老人が頷いた。

「ああ、本家のか」

「そう、本家の」

本家?

賢人さん家はラーメン屋か何かか?

「けど、あの子はもう高校生くらいになってるんじゃなかったか?」

多分その人です、と七海は中年の車の窓を覗き込んだ。

「その子の家、どの辺ですかね?」

ああ、と中年は車の後ろ、自分が来た方向を指差した。

「この練塀に沿って歩いて、最初の交差点を右に曲がれば直ぐだよ」

賢人さんの地図は合ってたことになるな、と思いながらそちらを見た七海は、おありがとうございます、と丁寧に中年に頭を下げた。

「そこまで、まだ歩きますか?」

「まあちょっと歩くが直ぐだよ」

おありがとうございます、と再び頭を下げた後、七海はじっと車の助手席を見つめた。

「ちなみに、何か車の助手席が空いているようにお見受けしますが」

送らんぞ、と言い捨てて中年は車を発車させ走り去った。

ちっ、と小さく舌打ちした七海に、軽くため息をついた老人が、まあ暇だしそこまで一緒に行ってあげよう、と七海を促して元来た方に向かって歩き始めた。

おありがとうございます、と七海は丁寧に頭下げた。

「あなたいい人ですねえ、ほんと」

「お尻を撫でないでくれるかね?」

いや、ほんと、お人好しが過ぎると悪い奴に騙されますよ、はっはっはっ、とか適当なことをいいながら並んで歩いている内に、立派な門に辿り着いた。

「ここだよ」

なんと!と七海は今自分達が歩いてきた道を振り返った。

「寺の塀だと思っていたの、個人宅の塀だったんですか?。え、これがケンちゃんですか?」

「ああ、白石さんの家は代々家老職を務めた家柄だし、この辺り一番の土地持ちでもあるしね。あ、分かる?家老職って?」

得意分野です、と頷いた後、しかし、と七海は少し考えてから老人を見上げた。

「代々家老職となると、その間さぞかしポッポナイナイもたんまり頂いたことでしょうな?」

知らんよそんなことは、と言った後、じゃあ、と再び元来た方向に歩き始めた老人に、毎度おおきに、と頭を下げた七海は、さあてと、と門を振り返った。

「たのもー」

と言いながら門をくぐると、小走りに賢人が現れた。

「いらっしゃい。あんまり遅いんで、今、駅まで迎えに行った方がいいのかな、って話してたとこだったんですよ」

だったら初めっからそうしろよ。

賢人に案内されながら、下手しなくても迷子になりそうな奥に進む。本当にお寺と見紛いそうな、古い造りの母屋の脇を抜け、離れの合間を通り、庭を横切って家の裏手に回ると、そこには車庫らしい比較的を新しい建物の前に、これぞベンツ、と言わんばかりの主張の激しい高そうな車が停まっていた。

その脇に立っていた男が振り返った。

どこか賢人の面影が有る口ひげがダンディーなその男は、煙草をポケット灰皿に入れながら、やあいらっしゃい、とにこやかに七海に頷きかけた。

賢人が、軽く手で彼を指し示す。

「父です。今日は車で送ってくれます」

お初です、と、不意に背後に立っていれば、すわっ、遂に我が家にも座敷童が出たか、と思うだろうなと思っていそうな父に頭を下げた後、七海はもう一度頷いた。

「戸田七海です。今日はお世話になります」

では早速に、とベンツの後部座席に向かって歩きかけた七海に、いえ、と賢人が慌てて手を振った。

「それは今洗車してただけです。乗ってくのはあっちです」

と、その指が、車庫の中に停まっている初期型の古いプリウスを指差す。

「あっちの方が燃費がよくって経済的ですからね」

座り心地がよさそうなベンツの後部シートを未練がましく窓ガラス越しにじっと見つめてから、七海は全身で二人の方を振り返りながら、なるほど、と頷いた。

「こんな話があるのです」

「え、いきなり何ですか?」

「アメリカでは、ホテルのボーイやレストランのウェイトレスは給料は安く抑えられています。これは、チップの文化があるため、チップがもらえる仕事をさせてあげるんだから、その分給料は安くてもいいよね、という考え方に基づくものです」

はあ、と賢人と父が顔を見合わせた後、七海を向き直り続きを聞いた。

「ある日、大金持ちのロックフェラーがホテルに泊まり、担当となったボーイは沢山のチップをもらえると期待しましたが、意に反してロックフェラーは相場よりも少ないチップしかくれませんでした。ボーイも生活がかかっていますので失礼を承知で彼に、私があなたほどの大金持ちならもっとチップをはずみますよ、とちくちくと嫌味を言いました。するとロックフェラーは澄ました顔で、私はそれだけしかチップを払わないから大金持ちになれたのだよ、と答えました」

「つまり、何が言いたいのですか?」

別に、と首を振った後、七海は屋敷の方を見ながら目を細めた。

「しかし立派なお宅ですな。金庫の中ではさぞかし沢山のお金が、使こうてくれえ、使こうてくれえ、と泣いていることでしょうな、はっはっはっ」

ニコニコと七海の話を聞いていた父は、ちょっと、とその笑顔を賢人に向けながら軽く顎をしゃくった。

え?と父を向いて瞬きした賢人に、ちょっと、と繰り返した父は、ふんっ、ふんっ、と先程よりも強く顎をしゃくり、賢人を隅へと誘った。

そしてちらっと肩越しに七海を振り返ってから賢人に顔を寄せる。

(本当に“あんなの”連れて行って大丈夫なのか?)

(ああいう子なんだよ、父さん。大丈夫、あの子は狡猾だからおちょくっていい相手とそうでない相手はちゃんと見極めてるから)

聞こえてるぞ、おい。

そんなこんなで車上の人となった三人だったが、車の中でも七海は、なんでも海運王オナシスは二枚の報告書にクリップを使った船長を首にしたそうですぞハッハッハッ、と一人喋り続けていた。

四十分ほど走った車は郊外に立つ立派な家の庭に入ると停車した。

純和風の賢人の家と対照的な、洋館という表現がふさわしい年代を感じさせるおしゃれなその家が建っているのは駅からも近隣の家からも遠い、不便と言ってもいい場所であった。だがそれが逆に、この家の住人は電車など使わず、煩わしい車の運転も自ら行う必要などないため、利便よりも静謐せいひつを優先して立地を選んだのだろうと確信できるだけの佇まいを持っていた。

先に立って玄関まで進んだ賢人が扉の脇にぶら下がったひもを引くと、扉越しでも中で鐘の音が響くのが聞こえた。

待っていたのだろう速さで扉が開くと、老いて痩せたのではないと確信できるようなすらりとした長身の老女がにこやかに現れた。わずかに紫に染めた髪が全く下品に感じない気品を備えたその女性は、にこやかな笑みを浮かべて賢人、七海と順に頷きかけながら、いらっしゃい、と満面の笑顔になり、その後、背後の白石父に、ありがとう、と頷いた。

すみません、ではなく、ありがとう、という言葉が自然に出たところに、西洋の文化に深く染まった生活を感じさせた。

いや、と軽く手を挙げて笑い返した父に、よほど気の置けない関係なのだろうな、と感じつつ、七海は老女に向かって丁寧に頭を下げた。

「戸田七海と申します。本日はお招きいただきありがとうございます」

「まあ、これはご丁寧に。私は舟橋初江です、よろしくね」

ね?という顔で父を振り返った賢人に渋い顔を返した父は、じゃあ、と持ってきた本を軽く振りながら賢人に頷き返した。

「『倫敦』で待ってるから、帰る時には連絡してくれ。ゆっくりでいいよ」

車の中で名前の出た近所の行きつけのコーヒーハウスを告げた父は、直ぐに車で走り去った。

それを見送ってから、さっ、さっ、と初江は嬉しそうに二人を中に招き入れた。

おおっ・・

これぞザ・洋館、と言わんばかりの入って直ぐのホールに立った七海は辺りを見上げながら見回した後、そっと賢人に顔を寄せた。

(部の全員でお泊り合宿とかやったら、絶対殺人事件とか起こりそうな雰囲気ですね)

(その“絶対”の根拠は?)

(ちなみに犯人は沙織さんです)

(だからその根拠は?)

さあ、どうぞ、と笑顔の初江が奥に二人を招く。

「今日は、田中さんはおられないですか?」

「ええ、今日は休んでもらったの」

わかってるでしょ?とでも言わんばかりの意味有り気な笑みを賢人に向けてから、初江は頷いた。

「だから大したおもてなしもできなくて。申し訳ありませんね」

いえ、お構いなく、とこちらも笑顔で返した後、七海は先に立って歩く初江の背中を見ながら賢人に顔を寄せた。

(大したも何も、おもてなしそのものをしてもらってませんよね。こういう時って最初にお茶ですよね?)

(そう思っているんならそう言ったらどうですか。父にしたみたいに嫌味も込めて?)

(言える訳ないでしょうが)

加齢のせいで少し耳が遠くなっているのか、初江は二人のヒソヒソ話に気づかないかのように先に立って歩き続けた。

家のだいぶ奥まで進んだな、と思わせる距離を歩いた後、初江は一つの扉を開いた。

その奥まった位置から、絶対応接室ではないな、と歓迎のお茶なしでいきなり要件かよ、とわずかに口を尖らせた七海は初江に促されて扉をくぐった。

書斎、いや、上品さを極めた作業場か、とその部屋を比喩して家具の少ない室内を見回した後、七海は部屋の中心からややずれた場所にぽつねんと立つイーゼルを見つけた。

部屋の雰囲気と相まって、描きかけの絵が置いてあるのかと一瞬錯覚しそうになったが、そのイーゼル以外、絵具などの、絵画作成を匂わせるものは何一つなかった。

こちらへ、と初江は絵の見える位置に七海をいざなった。

「見て欲しかったのはこの絵なの」

ちらっと賢人を見たが、賢人は全く動く様子は見せず七海を見返したため、誘われているのは自分だけなのだな、と七海は初江に促されるままに絵の見える位置に移動した。

大きな絵ではなかった。キャンバスに描かれたリアルな絵を見るのは、偶然に目の端に停まったというのではなく自らの意思でしっかりと見つめるのは、もしかしてこれが初めてかもしれないな、とふと思いつつ、絵の前に立つ。

は?

その半分以上に白い無地の部分を残した、暗色の絵。何かの物や風景を描いたというのではなく、黒い絵具と、ほんのわずかな他の色で描かれたそれは黒く渦をえがいていた。

なんだこれ?

当惑して初江を見るが、初江は七海の視線に気付いているのだろうに、その当惑に応えることはせず、もっとよく見ろ、と促すかのように、じっとその絵に視線を据えたまま動かなかった。

もう一度絵に視線を向け、じっとその周辺は筆の粗さを残してかすれ、中心に向かって絵具を重ねたようにどす黒くなる絵を見つめた。

じっとその絵を見つめていた七海は、不意にぴくっと体を震わせた。

その反応を目ざとく感じたように、それまで押し黙っていた初江が、どう?と口を開いた。

ただ、その目は絵の方を向いたまま動かなかった。

「この絵を見て、どう思います?」

正直に言いますと、と七海は軽く舌で唇を湿しながら初江を向いた。

「失礼ですけど、気持ち悪い絵ですね」

そう、と絵を向いたまま、先程までの愛想が嘘のようにわずかに目を見開いた無表情で初江が続けた。

「どこが、どう気持ち悪いの?」

なんかこう、とその表現し難さがもどかしそうに、七海は身振り手振りをするように手を動かした。

「なにか、この絵を見ていると、渦の中心からじっと見つめ返されているような気分になりますね」

どんな、と間髪入れずに初江が被せた。

「どんな目で、どんな目つきで見らていると思うの?」

問い詰めるような口調になっている自分の失礼に気付かないかのような、わずかに震えているように響く初江の声に、七海はちらっと賢人を見た。

七海を真っ直ぐに見ながら軽く頷いた賢人に、七海は初江を向いた。

「恨みに満ちた目で、じっと睨みつけられているような気分です」

その言葉を噛み締めるかのようにじっと目を絵に据えたまま固まった初江は、突然、ほっ、と、ため息のような声を漏らして体の緊張を解いた。そして、しばらく立ち尽くしたまま強く目を瞑って佇んだ初江は、突然その口元に笑みを浮かべ、開いた目を細めて七海を向いた。

「あちらで、お茶でもいかがかしら?」

何かしらの通過儀礼に合格したのだな、という訳の解らない確信を感じながら、いただきます、と七海は頷いた。






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