(番外編)ここだけの話(陰謀ハンター桜間さん)
ドレフュス事件・・・
呟くともなく呟いた桜間の前に立ち、並んで見上げる七海と早希に、桜間は頷いた。
「まさしく反ユダヤ主義者達の陰謀のようですね。調べてみる価値は有ります。面白そうなネタをありがとうございます」
桜間さんて、と早希が彼女を見上げたまま口を開いた。
「桜間さんの追っている“陰謀”の定義ってなんなんですかね」
「文字どおり、人が“陰謀”と認識する全てをカバー範囲としているつもりです」
けど、と七海も桜間の顔をじっと見つめた。
「古代文明や、オーパーツなんかも調べてませんか。あれって陰謀ですかね?」
「超古代文明や説明のつかない事象については、その断片は見えてくるのに、いつまで経っても決定的な証拠が出てくることはありません」
それは存在しないからじゃないのか?
「それは、だれかが意図的に、つまりそれらの存在を知っていながら隠そうとしている人間がいるに違いないのです」
この手の人種は思い込みが激しいな。
「誰かが何かを知っていて、そしてそれを隠している。その裏には何か陰謀があるに違いありませんから」
私は自分の闇歴史を知っていてそれを隠しているがこれも陰謀か?
そこで、誰も居ようはずの無い美術準備室に鋭い視線を投げて辺りを見回した桜間は、こっちへ、と囁くように二人を部屋の隅に誘った。
「なんすか?」
今の情報の代わりに、と桜間は二人に囁いた。
「今の情報の代わりに、最近私が掴んだ取っておきの情報を教えてあげます」
はひ?
「近いうちにドキュメンタリー系の情報番組でも明らかにされるかもしれませんが、その前に」
おおっ、なんか面白そう。
な、と七海も声を落とした。
「なんなんすか、そのとっておきの情報って?」
はい、と桜間は頷いた。
「百年前の世界一有名な連続殺人鬼、切り裂きジャックの正体です」
なんと!
彼の正体は、と桜間は更に声を落とした。
(驚くことに、ウォルター・シッカートというイギリスの画家なのです)
はい?
証拠があるのです、と桜間は囁き声で続けた。
(彼は『切り裂きジャックの寝室』(https://assets.st-note.com/img/1688759332684-pt2RSZHVUI.jpg?width=4000&height=4000&fit=bounds&format=jpg&quality=90)や『カムデンタウンの殺人』(https://assets.st-note.com/img/1688759264645-9o7sdhEeF1.jpg?width=4000&height=4000&fit=bounds&format=jpg&quality=90)という、彼と切り裂きジャックとの関連性を示すような絵を描いているのです)
いえ、と七海と早希は同時に半眼になった。
「それ、知ってますから」
「わてらの所感では、シッカートは自身が切り裂きジャックと匂わせることで注目を集めようとした炎上商法の画家、です」
なんと!と桜間は驚きの声をあげた。
(初めて会った時からあなた方は只者ではないと思っていましたが、この情報を既に掴んでいたとはさすがです)
しかし、と桜間は更に続けた。
(この情報は知らないでしょう。実はアメリカのパトリシア・コーンウェルという推理小説作家が2002年に最新の科学的手法を用いてシッカートが切り裂きジャックではないかと検証し、そして彼こそが切り裂きジャックだとの結論を得たのです。例えば、彼女は切り裂きジャックから警察に届いた手紙の切手に付着したDNAとシッカートの私信の切手のDNAを鑑定し、DNAが一致したそうです)
「それってあれですよね。99%の確率っていうやつ?」
「つまり、人類80億人の内、シッカートと切り裂きジャックは8000万人が属するグループの中にいるだけということでは?」
他にも、と桜間が熱弁する。
(切り裂きジャックの手紙とシッカートの手紙の筆跡を専門家に鑑定依頼したところ、同一人物の可能性が高いとの結論が出たとのことです)
「さっきのDNAの件もそうですが、そもそもからして、その手紙が切り裂きジャックからの手紙と確認されていないはずですが?」
(プロファイリングでも、シッカートと切り裂きジャックの精神的性向に類似が見られたそうです)
「どっちも暗い奴だったんですよ」
「んです。シッカートは陰キャのドガとも友達だったらしいですから、根の暗い、思い込みの深い、変な奴だったんですよ、きっと」
(コーンウェルは私財を投げ打ち、7億円もの費用をかけて調査して調査したそうです。それがいい加減なものとは思えません)
「実は彼女は調査結果の執筆前に、出版社と原稿料10億円で契約してたそうですよ。調査したけどシッカートは切り裂きジャックじゃありませんでした、だれだかさっぱりわかりません、ではお話なりませんから、こじつけでの何でも、シッカートを切り裂きジャックにしなければならない立場だったんです。調査結果だって改ざんしているかもしれません」
な、なんと・・と桜間はほとんど怯えたような表情で七海を見つめた。
「なんとすごい情報収集能力、そして鋭い考察」
「普通です」
「そーそー、普通です」
すばらしい!と叫んだ桜間は七海と早希の手を取った。
「その能力を是非とも活かしたいです!どうです、私の配下になりませんか?」
「配下ってなんだよ、その上から目線」
「せめて沙織さんみたいに仲間として誘えよ」