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(番外編)今年の夏は
賢人さん、と呼ぶ声に、ドーミエの画集を見ていた賢人は顔を上げた。
見上げると、深刻な顔をした七海がじっと賢人を見下ろしていた。
「どうしましたサキちゃん、そんな顔をして?」
はい、と七海は小さく頷いた。
「賢人さんに相談したいことが」
全身で七海を向いた賢人は、なんでしょうか、あらたまって、と頷いた。
「何か、深刻な話でしょうか?」
はい、と七海は再び頷いた。
「かなり深刻です」
ほう。
賢人は、まっ直ぐに七海を見ながら頷いた。
「わかりました。ぼくでよければ相談に乗ります」
では、と小さく深呼吸した七海は慎重に言葉を選ぶようにして口を開いた。
「今年の6月は、なんでこんなに長いんでしょうか?」
しばらく、じっと見つめ合った後、ああ、と賢人は納得したように頷いた。
「あれじゃないですか、地球温暖化とかのせいじゃないですかね?」
「残暑と超常現象を同列に語らないでいただきたい」