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(番外編)悪口
賢人さん、と呼ぶ声にブリューゲルの画集から顔を上げる。
「なんですか、サキちゃん?」
これ、と言いながら七海は手に持っていたタブレットを賢人に向けた。
「このゴッホの絵のことなのですが」
「またゴッホの悪口ですか?」
いえいえ、と七海は慌てて手を振った。
「悪口だなんてとんでもないです。私はゴッホの絵はなかなか上手だな、と思い直しているところです」
ほう。
七海の唐突な話にいささか警戒しながらも、賢人はタブレットと七海の顔を見比べた。
「どうしてそう思ったんですか。何かお気に入りの絵でもありましたか?」
いえ、と言いながら、七海はタブレットを賢人から少し離した。
「ゴッホの絵って、こうやって小さくして見ると上手に見えると思いませんか?」
「それを悪口だと言っているのですよ、ぼくは」