(番外編)この親にして
ほら、と賢人がスクリーンに映し出した絵をじっくりと眺めてから七海を向いてにっこり笑った。
「これがピエール=アンリ・ド・ヴァランシエンヌの『ヴェスヴィオの噴火』(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/09/Augustins_-_Eruption_du_Vesuve_-_Pierre-Henri_de_Valenciennes_78_1_1.jpg)
です」
おおっ、と七海はスクリーンを見ながら頷いた。
「これは壮大な絵ですな」
「はい。ヴェスヴィオ山はイタリアにある火山で、今は活動していませんが、現在も監視体制が敷かれています。何度も噴火をして地震などを起こしてきた歴史がある火山なのですが、西暦79年の噴火が有名で、火砕流でポンペイ市を埋没させ壊滅しています」
「以前に見たブリュレさんの『ポンペイ最後の日』(https://omochi-art.com/wp/wp-content/uploads/2022/01/125e09751c3c54d2c112a9d017ab7d5c.jpg)のあれですな」
洋菓子さんではなくブリューロフさんです、と言った後、賢人はタブレットを手に取った。
「このヴァランシエンヌは18世紀後半期に活躍して、主に風景画を描いていました。後の風景画家たちにも大きな影響を与えた人物でもあります」
「半ハゲの分際で?」
それは関係ないでしょ、とため息気味に言った後賢人はスクリーンに一枚の絵を映し出した。
「まあ、風景画家のヴァランシエンヌにとってはさっきの『ヴェスヴィオの噴火』はちょっと異例なわけです。そして面白いことに、彼の弟子のアシール=エトナ・ミシャロンも主に風景画や人物画を描いていた画家ですが、何故か、ほらこれ、この絵のようにヴェスヴィオの噴火の結果廃墟となったポンペイの遺構を描いた『ポンペイの遺跡』(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d2/Achille-Etna_Michallon_-_Le_Forum_%C3%A0_Pomp%C3%A9i.jpg)という絵も描いているんですよ」
「この絵を売って儲けた?」
「さあ?けど画家なわけですから当然そうなんでしょうね」
整いました、と言いながら七海は腕を組んだ。
「つまり父親が放火をし、悪徳不動産屋の息子が更地となったその土地を安く買い叩いて土地転がしで儲けた、とこんなイメージでよろしいですね?」
「ぼくの説明でそう誤解させたなら申し訳ないですが、ぼくチクリともそんなことを匂わすこと言っていないですよね?」