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カンショー!  作者: 安城要
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(番外編)私は行く!

昼休み。

偶然廊下で出会い、今からコーラを買いに行くという七海に、付き合うか、と言いながら並んで歩き始めた早希は突然、あれ?、と声をあげた。

「あれ、桜間さんじゃないか?」

ほんとだ、と七海も頷いた。

「しばらく美術準備室ぶしつに来ないけど、チイちゃん言うみたいにバイトでも始めたのかな?」

向こうから歩いてくる桜間に一本道の廊下で避ける場所などあろうはずもなく、ある程度近づいたとろころでやや俯き加減に歩き二人にまだ気付いていないような桜間に、桜間さん!と呼びかける。

「こんにちわ」

「なんか、久しぶりみたいな気がしますね」

こんにちわ、と軽く頷き返した桜間は、その後再び頷いた。

「ちょっと、イギリスまで行っていたもので」

は?

ただ、とどこか憔悴したような顔になった桜間は伏目がちに続けた。

「ただ、ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルンドロブル・ランティシリオゴゴゴホの聖メアリー教会に行ったのですが、神父は既に亡くなっていたのです」

まじで行ったのか!

「後任の神父に「ババ・ヤガ」と伝えましたが、彼は、何も知らないと」

そりゃあそうだよろうよ。前の神父が生きてたって知らなかったんだから。

桜間は更に俯いた。

「禁書への道は閉ざされました・・・」

ち、ちなみに、と七海は恐る恐る桜間に手を伸ばした。

「渡航資金はどうやって工面を?」

はい、と桜間は頷いた。

「死んだおばあちゃんが私の結婚式の資金にと残しておいてくれたお金の一部を使いました」

「あんた大馬鹿野郎だよ」

いえ、と七海の言葉に桜間は決然と首を振った。

「おばあちゃんもわかってくれるはずです」

「わかるわけねえだろっ、禁書とか、おばあちゃんが和歌山でミカン作って一生懸命貯めたお金をなにしてくれてんだよっ!」

「いえ、おばあちゃんは青森でリンゴを作ってたんですが?」

どっちでもいいよ、そんなもん。

仕方ありませんね、とそこで早希が進み出た。

「代わりに、私が掴んだ世界征服を企む秘密結社の末端組織の情報を教えてあげます」

えっ、とぱっと顔を輝かせた桜間は小走りに先に詰め寄った。

「本当ですか!」

あい、と言いながらそっと辺りを見回した早希は桜間に顔を寄せた。

「場所は南米、フランス領ギアナにあるデグラ・ブロックオースという寒村に住む、マダム・オッペンハイムスキーという老人を訪ねてください。そうしてこう伝えるのです。「ニイタカヤマノボレ一二〇八ヒトフタマルヤー」」

南米のばあさまに何を奇襲攻撃させるつもりなんだよ、お前。

オッペンハイム・・ニイタカヤマ・・と必死にメモを取る桜間に、七海はほとんど叫ぶように言った。

「あんたもいい加減気付けよっ、あんたチイちゃんにからかわれてるんだよっ!」

しかし、と桜間は当惑したようにペンを止めて七海を見た。

「実際、ウエールズに行ったらその村は有りましたし、言われた名前の教会も有りました」

「事前に地図を調べた上で言ってんだから当然だろ!」

「それに、言われたとおり神父もいましたから」

「寺に行ったらボーズがいるのと同じ確率で、教会に行ったら神父もいるんだよ!」

わからんぞ、と言いながら顎に手をやった早希はニヤリと笑った。

「プロテスタントの教会に行ったら、いるのは神父ではなく牧師だからな」

「お前はちょっと黙ってろ!」

は?と当惑したように二人の顔を見比べた桜間は、そこではっと息を飲みながら口に手を当てた。

「そういえば・・聖メアリー教会は英国国教会の教会でした。英国国教会は確かプロテスタント系・・・」

だったら、と桜間は何かを確認するかのように早希を見ながら続けた。

「だったら、私が会ったのは牧師だったということ・・・ならば・・・」

そこで桜間はすっと青ざめた。

「いるんですね、あの協会のどこかに、人知れず。牧師とは別に、闇の神父とか、影の神父とか呼ばれている何者かが」

いるか、そんな転びバテレンみたいな奴。

そうなのです、と腕を組みながら重々しく頷いた早希を見た桜間は、こうしてはいられないっ、と叫びながら身を翻した。

「もう一度行って確かめねばっ!」

まていっ!と七海は慌てて桜間の肩を掴んで引き止めた。

「だからさっきから行ってるだろ!あんたチイちゃんに騙されてるんだってば!」

惑わされてはいけません、と早希は静かな声で首を振った。

「この世には真実を覆い隠そうとする敵がいるのです。それはあなたの近所にも、もちろん学校の部活の中にも」

どんな部活だよ。

七海と早希を見比べた桜間は、早希に向かってがくがくと頷き、七海はため息をついた後、早希に向かって唾を飛ばして叫んだ。

「お前いい加減にしろよ!可哀そうだろが!」

「本人がいいんならいいんじゃね?」

「リンゴ作ってたばあちゃんが可哀そうだろ、って言ってんだよ、私しゃ!」

とたんに、午後の授業の時間を知らせる予鈴がなり、ああん、もうっ!と叫んだ七海は涙ぐんで早希と桜間を睨んだ。

「ほらあ、コーラ買いに行く時間なくなっちゃったじゃないか、どーしてくれんだよっ!!」

「なんだかんだ言って、結局一番怒るところはそこかよ」


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