表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カンショー!  作者: 安城要
149/238

(番外編)再び 真実は井戸の中

その日。

美術準備室ぶしつに現れた七海は、先に来てスクリーンをじっと見つめていた早希に、よっと手を挙げてからスクリーンを見つめた。

「これは一昨日見てたお菊さんの絵じゃないか」

うむ、と早希はジェロームの『人類に恥を知らせるため井戸から出てくる〈真実〉』から七海を向き直った。

「この絵を見ていて思いついたのだが」

「何を?」

「この女性、コマチ=アレクサンドラ・オノ女史は」

「私達の認識ではお菊さんじゃなかったのか?」

まあ聞け、と早希は続けた。

「日本人とギリシア人のクオーターでアテネ在住の彼女は、恋人が突然前触れもなく失踪し失意の中にあった」

ほう。

「そんな時、日本人の祖母が彼女の先祖についての話を聞かせてくれた。彼女の先祖は小野篁おののたかむらと言い平安時代の日本の貴族で」

「なんとなく見えてきたぞ」

「うむ。貴族だった彼は昼間は宮中に仕えていたが、夜は京都東山の臨済宗の古刹、六道珍皇寺ろくどうちんのうじの井戸から地獄に降り、閻魔大王の裁判の補佐をしていたという」

「伝説ではそうなっていましたな」

「六道珍皇寺にはまるでどこかから飛び降りているように服の袖が上に向かって跳ね上がった篁像も残されているそうな」

そんでもって、と早希は続けた。

「その話を聞いたアレクサンドラはせめて彼氏の生死だけでも知りたいと、その一縷の望みを頼りに来日」

「なんでギリシヤ人なのに閻魔大王に会いに来るんだよ。ハデスの所に行けよ」

まあそれは置いておいて、と早希が更に続ける。

「京都を訪れた彼女は六道珍皇寺の井戸からえいやっとばかりに身を投げた」

「そして枯れ井戸の底で頭を打った彼女は天に召され結局閻魔大王には会えませんでした、と」

ちゃかすな、と早希が顔をしかめる。

「そして閻魔大王に面会し、真実を知った喜びに彼女は慌てて井戸から飛び出し叫んだ」

「それはいいが、なんで全裸なんだよ」

「それは彼女を亡者と勘違いした奪衣婆だつえばに服を取られてしまったのです」

どんくさいギリシア人だな、アレクサンドラ。

「井戸からを出てきた彼女は、喜びに全裸なのも気にならないかのように叫んだ。みんなっ!エルビスは生きてた!」

「なんでプレスリーの生死聞いてきてんだよ。恋人は何処に行ったよ」

「失踪中なのでそれはわかりません」

「そんなこと聞いてんじゃねえんだよ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ