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カンショー!  作者: 安城要
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(番外編)ヤバい猿

七海が美術準備室ぶしつに姿を現した途端、沙織が待っていたように、七海さん!と勢い込んで立ち上がった。

「昨日の『水戸黄門』を見ましたか?」

もちの、ろん、でございます、と言いながら七海はしかめ面しく親指を立てた。

「涙あり、笑いあり、アクション有り。あれこそ現代エンターテイメントの極致でございます」

まさに!まさに!と嬉しそうに頷く沙織と七海を見ながら、現代って、あれ四十年前のの再放送でしょ?と賢人が嘆息する。

「水戸光圀は諸国漫遊どころか関東地方からすら出たことないらしいですよ、実は」

やれやれ、と七海はあきれたような顔でため息をつきながら首を振った。

「騙されてはいけません賢人さん。歴史というのはしばしばその時々の為政者いせいしゃによって捻じ曲げられて伝えられるものなのです」

「そうなのです」

「あなた方こそ真の歴史とエンターテイメントの違いを理解した方がいいのではないですか?」

実は、とそこでそっと辺りを見回した沙織は、まるで極秘の情報を伝えるかのように声を落としながら賢人に顔を寄せた。

「以前読んだ『ハイイロウーリーモンキーでもわかる水戸黄門』という本によると、水戸光圀の“圀”の字は中国の則天武后が作った字だそうです。「国は惑ってはいけない、国は八方に広がるのがよい」として國だったところに新たに圀の字が出来たのだとされています」

「そんなトリビアよりも絵の話をしませんか?」

そこでぱっと賢人から顔を反らすかのように向かい合った七海と沙織は、いやあのシーンが、いやあの場面こそ、と興奮したように語り始め、再び賢人にため息をつかせた。

そこで沙織が、しかし、と首を傾げた。

「しかし、悪代官の子分と戦った後、あんなにあっさりと懐から印籠いんろうを取り出すのはいかがなものでしょうか。あんなに無造作に懐に入れていてあれだけ激しく動けば戦っている時に懐から飛び出してしまいそうなものですが」

「うむ、リアリティの観点から言えば雑な設定かもしれませんな」

例えば、と沙織頷いた。

「戦っている最中、敵を躱した助さんの懐から印籠が飛び出して落ちる。なんだ、とそれを見た悪代官一同がはっと黙り込んだその瞬間、格さんに突き飛ばされた小者がよろめいてそれを踏んづけてしまう」

「おおっ、なんと」

「辺りは完全に静まり返り、えっ、なんでみんなおれの足元を見てるの?と恐々とそっと足を上げると、そこにはひしゃげてつぶれた三つ葉葵の紋章の印籠が」

「三つ葉葵の家紋の入った印籠を踏んで壊すとは、上様の顔に泥を、いえ、ンコを塗りたくるも同然の行為ですな」

はい、と沙織は無表情に頷いた。

「ちなみに俳優のレオナルド・ディカプリオは、2001年にしつこいパパラッチに馬糞を投げつけて命中させるという事件を起こしています」

「まじか!それは素手で投げたんですか?」

「そこまでは知りません」

ていうか、と賢人は嘆息した。

「なんでそんな事件を年代も含めて覚えているんですかね?」

「それは豊かな人生を送るためです。ハリウッドセレブのゴシップを憶えていて素早くジョークとして繰り出すのがセレブリティのたしなみなのです」

して、と七海は沙織を見た。

「その小者は?」

はい、と沙織は陰々滅々とした表情で頷いた。

「悪役ですら血を見ることが少ない『水戸黄門』ですが、さすがにこれはいけません。すぐさま江戸から首切り役人山田浅右衛門が招聘しょうへいされることとなるでしょう」

ちなみに、とカバンからぱっと2冊の本を取り出した沙織はぐるりと二人にその表紙を見せた。

「山田浅右衛門について詳しく知りたい方には、『ピグミーマーモセットでもわかる図解で見る山田浅右衛門』『続 ピグミーマーモセットでもわかる図解で見る山田浅右衛門』をお貸ししますがいかがでしょうか」

「て言うか、なんでその猿、人間の首切りについてそんなに知りたがってるの?もしかしてヤベー猿なんじゃないだろうな?」





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