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(番外編)あだ名
その日。
七海と賢人は美術準備室の大机を挟んで二人だけで対峙していた。
じっと睨むように見つめ合う二人の額にはじっとりと汗が浮かび、互いの瞳の奥にあるものを探り合うかのような心理戦が、もう随分長い間続いていた。
口火を切ったのは七海であった。
「番犬」
その声に賢人も静かに応えた。
「ディエゴ・ベラスケス」
「酒場でうえ~いの人」
「レンブラント・ファン・レイン」
「ギリシャの人」
「エル・グレコ」
「樽の人」
「サンドロ・ボッティチェリ」
「犬の漫画の人」
「ウジェーヌ・ドラクロワ」
ほらあ、と言いながら七海は口を尖らせて不満そうに賢人を見た。
「ほらあ、ちゃんと通じるじゃないですか?」
「こんなもんあなたとぼくの間でだけでしょうが」