(番外編)蘇る殺人者
おへといあ~す、とどこがぐったりした様子で美術準備室に現れた七海を見て、賢人は小さく、わっと声をあげた。
「どうしたんですか、ひどい顔をして」
そのひどい顔というのは、と目の下にくまをつくった今にも倒れそうな顔でよろよろと椅子に腰かけた七海は賢人を向いた。
「私の顔がいつもと違うということでしょうか、それとも私が不細工だとおっしゃりたいのでしょうか?」
「わずかにでも心配したぼくが愚かでしたよ」
それでも、そのままぐったりと机に突っ伏した七海に、心配そうにその顔を覗き込む。
「どうしたんですか、一体」
いえ、と突っ伏したまま首を振る。
「連日のこの暑さによる寝苦しさに加えて、いつもの病気が」
いつもの病気?と一瞬考えた後、ああ、と賢人は納得気に頷いた。
「あのいつもの、夢に出てくる、って奴ですか。しかし今回は特別酷そうですね。一体何が?」
はい、と七海はなんとか顔を上げた。
「私を殺そうと殺人者が追いかけてくるのです。それが、倒しても倒しても再び蘇って襲ってくるのでございます。それも恐ろしいことに、日によってその殺人者が違うのです」
「蘇ってくる殺人者も怖いですが、それを倒しても倒しても、って、どうやって?」
「何故が護身用の銃を持っていて、ズドンと」
どういう夢ですかそれは、と賢人は嘆息した。
「しかし夢に見るからには何か思い当たることがあるのでは?」
それが無いから、と七海は再び机に突っ伏した。
「それが思い当たらないから、対応のしようがなくて」
「いや、ここまでのサキちゃんを見ている限り、夢に見る限りは何か理由があるはずですよ。直接的に関係なくても何か原因があるはずです。最近、何か変わったことをしませんでしたか?」
顔を上げた七海は探るような眼で賢人を見た。
「ええと、最近は母が高校生の頃に読んでいた本が面白くて時々読んでいますが」
ほら、と賢人が手を打って頷いた。
「それじゃないですか。それは殺人系のミステリーとかですか?」
「いえ、それとは対極に位置するような、火浦さんという小説家の本です」
うむ、と顔をしかめた賢人は首を捻った。
「他には、何かないですかね?」
う~む、と七海は宙を見つめた後頷いた。
「そういえば、最近、パソコンで時々FPSというゲームをやってます」
「FPS?」
「シューティング系のゲームで、ネットのフィールド上で敵味方に分かれて銃で撃ち合うのです。長くても5分くらいで終わって、一時の気分転換にいいんですよ」
ああ、と賢人は頷いた。
「ぼくの友達で、小説のようなものを書いている人がいるのですが、彼も時々やってるみたいなこと言ってましたね。けど、ああいうのはやり込んでいる人がいて装備や技術の差が大きくってすぐやられちゃうとか言っていましたよ」
はい、と七海は頷いた。
「けど、やられても時間内なら何度でも復活してゲームを続けられ」
そこで口をつぐんだ七海は賢人と見つめ合った。