(番外編)あなたに聞きたいたった一つのこと
その日。
今日の美術準備室のメンバーは七海、早紀、そして沙織。
今日はみんなてんでばらばらに大机に向かって座り、それそれ美術本なんかを眺めていた。
その時、不意に顔を上げた沙織が、七海さん、と呼んだ。
「あなたに一つだけ聞きたいことがあるのですが、聞いてかまいませんか?」
顔を上げて沙織を向いた七海は、沙織の改まった口調に不思議そうに頷いた。
「はい。なんですか?」
七海に向かって口を開きかけた沙織は、そこで何かに気づいたように、あ、と言いかけたところで口をつぐんだ。
一瞬の逡巡の後、沙織は、やっぱりいいです、と美術本に目を落とした。
「すみませんでした、忘れてください」
ええ~っ、と七海は露骨に顔をしかめて沙織を見た。
「そんなこと言われたら逆に気になるじゃないですか、なんなんですか?」
いえ、と沙織は顔を上げずに首を振った。
「いいんです、もう使っちゃったんで」
使った?と七海が更に顔をしかめる。
「使った、って、何を?」
いえと沙織は七海と目を合わせないようにしながら再び首を振った。
「もう終わっちゃいましたので、ほんと、いいんです」
「だから何が終わったんです?」
だから、と沙織は俯いたまま瞑目した。
「だから、もう使っちゃって終わったんです。だからもういいんです」
だ・か・ら、と七海が口を尖らせる。
「何を使って、何が終わったんですか?」
おい、と言いながら早紀が背後から七海の肩に手を置いた。
「沙織さんもこのネタお前に振ったこと後悔してるみたいだから、気付いてわざとやってるならもうやめてやれ。気付いてないなら早く気付け」
は?