(番外編)呪いの絵(おまけ編)
その日。
午後の授業を終え、教室を出て美術準備室に向かおうとした白石賢人は、教室の扉を開いたとたんたたらを踏んで立ち止まった。
目の前を、背後を振り返り振り返りしながら、怖え~、とか、やべえ、とか囁き合いながら足早に二人の男子生徒が通り過ぎたのだ。見送ると、完全に帰り支度をしているのにも関わらず、二人は下駄箱から遠い方の階段の角に消えた。
二人が来た方を振り返る。
ぶうううううううううううううっ・・・
廊下の、階段の方に曲がる角の所に、菅笠と蓑を身に着けた小柄な女生徒の姿が二つ、直立不動で立っていた。
な・・・
小走りに、しかし恐る恐る近づいて見る。
ご丁寧に、ふたりともヒョットコとオカメの面をつけ、地蔵のように両手を合わせていた。
例え面をつけていても、賢人は小学生のような小柄な生徒を陵上に二人しか知らなかった。
「な、なにをやってるんですか?お二人とも?」
ヒョットコの方が、イッヒッヒッヒッ、と肩を揺すった。
「おやおや、地蔵に話しかけるとか、おかしな若者がおりますぞよ」
「ほんにほんに。地蔵が喋るわけないのに。この若者、心を病んででもおりますのか」
「現にあなた達は喋ってるでしょうが?」
面の向こうの少しくぐもってはいるが聞き慣れた声にため息をついた賢人だったが、そのあまりにも不気味な姿に少し距離をとったまま続けた。
「一体何をやってるのですか?」
「何をと申されましても」
「変なあだ名をつけた2年生どもへの当てつけですかねえ」
なんだなんだと教室から顔を覗かせた生徒達がびっくりしたように恐る恐る教室を出て近づいてくるが、その異様な姿にいずれも、うっ、と一言言ったっきり黙り込んで遠巻きに見つめている。
しかし、と賢人が唾をのみ込んだ。
「そんな菅笠と蓑をよく売っていましたね」
「道の駅の郷土品コーナーで買ってきましたのじゃ」
「高かったのですぞよ」
知りませんよそんなこと、と再びため息をついたところで、ちょっときみ達、と大きな声が響いた。
振り向くと、生活指導の教師が顔をしかめてこちらを見つめていた。その少し背後からおびえたように一人の女子生徒が見つめているのは、彼女が教師を呼んできたのかもしれない。
「ちょっと職員室まで来なさい」
うす、と頷いた2匹は、じゃあ、と賢人に向かって手を振った。
「んじゃあ、行ってきます」
「また後で部室で会いましょうね、賢人さん」
「あんまりぼくに対してフレンドリーに振舞わないで下さい。同類と思われたくないので」