(番外編)西遊記(中東編)
「まずはこの絵を見てください」
スクリーンに映し出された絵を見た途端、賢人は頷いた。
「これは先日見たムンカーチ・ミハーイの『ピラトの前のキリスト』ですね、これがどうかしましたか?」
この、と七海の指が左端の青い服の男を指差す。
「この人、頭の天辺が禿げてます」
「なるほど、確かにそう見えますね。それで?」
「これはいわるゆ河童ハゲという奴ですね。そう意識すると、この髪型、そしてこの顔つきまでもが河童っぽく見えてきてしまいます」
「まあ、あるあるですね」
「するとあら不思議、隣の両手を挙げている男がもう猪八戒にしか見えなくなってくるのです」
「言われてみれば、そんな雰囲気、確かにありますね」
「では孫悟空はどこかと探してみると、椅子に座っている偉そうな男、これが、長旅で髪も髭も伸び放題になった三蔵法師のピンチに、一番偉そうにしていた役人っぽいのふんじばって押し入れに放り込み、そいつに化けたとこまではよかったが、後先考えていなかったため、さあここからどうするかと困っている孫悟空にしか見えなくなってくるから不思議です」
「つまりは、これはどういう状況だと?」
はい、と七海は頷いた。
「経典を求めて天竺をめざしていた三蔵法師一行は、いつの間にか天竺を通り越し、中東のパレスチナ辺りまで来てしまい、怪しい奴だと三蔵法師が官憲に捕まってこのような状況になってるのではないでしょうか?」
「一体どいういう頭の構造をしていたらそういう妄想ができるんですかね、サキちゃんは」
「いいじゃないですか、想像を楽しむくらいは」
「そして私ならこう続けるでしょうっっ!!!」
突然叩きつけるように扉を開き美術準備室に飛び込んできた沙織に、おおうっ、と七海はびくっと振り返った。
「危機に陥った三蔵法師一行でしたが」
「挨拶もなしでいきなりですか。せめて、話は廊下で全て聞かせていただきましたよ、ふっふっふっ、でもいいのでやりませんか?それと、今、三蔵の言い方変じゃなかったですか?」
「悟空の機転でなんとか一度はピンチを乗り越えたのですが、再び敵に囲まれた上に中ボスまで出てきてしまいます。しかし、そこで八戒がおもむろに印籠をかざすと、ローマ兵達はたちどころに平伏し、これにて一件落着!」
「なんか全然違う話になってるんですけど?」
「呵々大笑を残して三蔵法師一行は再び旅の空。さて次回の『水戸西遊記』は」
「せっかく中東まで行ったのになんかローカルなグルメ番組みたいな名前つけられちゃってるぞ、おい」
「さて次回の『水戸西遊記』は『カイロで出会った孝行娘』・・」
「あ、アフリカ方面行っちゃうんですか、私ヨーロッパの方に行かそう思ってたんですけど」
「じゃあ次回は『イスタンブールの悪代官』で」
「どうでもいいですけど、私と賢人さんもう帰るんで後の戸締りお願いできますか。んじゃ」