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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
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タンジョウの街 (5)

 ブシドウは両手を頭の後ろに組んだまま、リオンの言葉に目を見開く。ゆっくりと組んだ手を離し、初めて玩具(おもちゃ)を与えられた子供のように目を輝かせる。


「あの爺さんと同じくらいの魔力……? まじかよ、どんな奴なんだ?」

「な? 面白いだろ?」


 二人は急に意気投合し、何も知らぬ田中への勝手な期待が注がれる。


 一方、扉の向こうでは、地に突っ伏した体勢で大袈裟(おおげさ)なくらい息を荒らげる田中の姿があった。試験を開始して五分も経たないうちにこうなった為、顔を青ざめさせたキョウカンは無言のままに彼を見下ろす。


 試験をする会場は元々訓練場として使われており、打撃やスキルなどを受けてボロボロになっても魔力により何度も再生する案山子(かかし)や、外の地形を()した岩肌や木々の模型が設置されている。その質感は魔力によって底上げされており、案山子に関しては自律(じりつ)歩行も可能である。


 そんな本物同然の草木に埋もれる田中は、キョウカンの手を取りようやく立ち上がる。


「えーと、田中、さん?」

「……はい……」


 キョウカンに支えられ、息も絶え絶えに返事をする田中。

 その視線の先には、嬉しそうにステップを踏む案山子の姿があり、次なる攻撃を待ち遠しくしている。が、先程まで何度やっても打撃さえ当てられなかった田中は、それを恨めしそうに見ることしか出来ない。


「どうしましょうか、このままだと不合格にせざるを得ないのですが……」


 田中が自力で立てるようになるのを確認し、離れたキョウカンはそう告げる。

 しかしそうも言ったが、彼はどうしたものかと(うな)っていた。リオンが連れてきた人材を断るのは、彼の沽券(こけん)に関わるのではないか。そんな忖度(そんたく)が彼の中で渦巻いていた。


「……そうですよね」


 田中の声が震えたのは回復しきってない身体のせいか、はたまた不甲斐(ふがい)ない自分の力量を()じてか。震える拳を握り締めるその仕草に、キョウカンは決意する。


「田中さん」

「……はい」


 ようやく呼吸が整ってきた田中は、厳しい顔つきのキョウカンの顔を見据える。田中は覚悟した。たとえ何を言われたとしてもどんな結果にせよ、自分の現状から顔を背けはしなかった。

 田中の表情を見たキョウカンはふっと笑い、表情を和らげる。


「体力は訓練で養えます。身体能力も、魔力により補えます。勿論田中さんにとっては(いばら)の道ですが、あなたの覚悟と強い意志を信じます。最低ランクのEからとなりますが、合格としましょう」


 驚きから息を呑んだ田中は、未だ震える身体で深々と頭を下げる。その仕草は洗練(せんれん)されたものであり、彼の人柄が伝わるには充分(じゅうぶん)過ぎるものだった。


「ありがとうございます」


 感動さえ覚えそうなその場面で、カランと乾いた足音と共に未だ田中を挑発する案山子が二人の間に入り込む。尻を振る仕草にお辞儀の体勢のまま田中は案山子を睨むが、次の瞬間、(すさ)まじい打撃音と共にキョウカンの蹴りをまともに食らった案山子が、吹っ飛んだ先の突き出た岩の模型に当たって砕け散った。


 赤みがかったオーラをその足に纏わせ、上げていた足をゆっくりと下ろすキョウカン。田中はお辞儀の体勢で固まったまま、顔を引き()らせる。


「例えあれが人間でも、私はこうしてました」


 おどけて笑うその顔は冗談を言っているのが一目で分かるものだったが、田中は笑顔を作り出すので精一杯だった。


「さて、田中さん歩けますか? これにて試験は終わりですので、肩を貸しますよ」


 どこまでも親身になるキョウカンの人柄に、田中もまた躊躇(ちゅうちょ)無く彼の肩に腕を回した。二人は長年連れ添った戦友のように、歩を揃えて扉へと向かう。その後頭部は互いに汗で光り合い、虹色の反射光を放っていた。


 ──扉から出てきた満身創痍(まんしんそうい)の田中を見て、リオンは唖然とする。まるで戦場から帰ってきたかのような光景に、思わず失笑をするブシドウ。


「田中さん! 大丈夫ですか!」

「大丈夫です、ありがとうございます」


 キョウカンに肩を貸された状態で彼は力無く笑うが、それを見てリオンは厳しい目つきに変わる。


「そんな目で見ないでくれ、リオン。君が連れてきた人物とは言え、いつも通りやっただけだ」

「んだよ、ただのおっさんじゃねえかよ。まあでも、爺さんも体力はからっきしだったもんなあ」


 関心を失ったブシドウはつまらなさそうに呟いて、再び頭の後ろで手を組む。リオンは事故などでは無かったことに安心し、励ますように田中へと助言する。


「田中さん、体力は魔法で補えます。俺の知る人に魔法に詳しい方が居ますから、少し休んだら最後の試験を行いましょう」


 休める事に安堵した田中は、深く頷いた。


「リオン、お前やけにこのおっさんを助けたがるな。弱みでも握られいてっ!」


 ゴンッと鈍い音が響き渡り、リオンの拳骨(げんこつ)が黒髪の頭に刺さっていた。


「何しやがる!!」

「少しは黙ってろ」


 目の前で展開する険悪なやり取りに田中は不安になるが、「いつもの事です」とキョウカンが耳打ちした。


 基本的にどの席でも使えるギルド内で、唯一目的が無い者には貸し出されない場所がある。

 そこは待合所とも待機所とも言われ、正式な名称は無いが、来賓(らいひん)やギルドが認めた場合にのみ使用する事が許される。


 とは言え用意された机や椅子が少し豪華なくらいで、他と隔絶(かくぜつ)されたような空間でも無いので、周囲の人からの視線は避けられない。


 そんな場所に座らされた田中は、ばつの悪い顔をしながら体力の回復を待つ。身体が軽く沈むほど柔らかいその椅子は座り心地が良く、視線を受ける田中の緊張を和らげるにはもってこいであった。


 やがてリオンとブシドウの小突き合いが一段落した頃、回復した田中は椅子から立ち上がる。それに気づいたリオンが手を差し伸べそうになるが、田中は笑いかけて首を振った。


「かっこつけんなよおっさん!」

「ブシドウ!」


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