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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
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タンジョウの街 (2)

 その男は、カウンター席の一番端で目立たないように静かに酒を飲んでいた。しかし、彼が声を発した瞬間、あれほど騒がしかった店内が静まり返ったのだ。

 大男は慌てて、その男へと振り向く。


「リ、リオンさん……」

「彼を連れて行って、何をするつもりだ?」


 グラスを置いた男、リオンはゆっくりと立ち上がり、大男へと身体を向ける。いつの間にか二人の間からは人が()けており、立ち上がったリオンは誰にも邪魔される事無く大男の元まで歩み寄る。


「いやぁ、その、こいつが喧嘩を売ってきたんでぇ……」

「先に彼を侮辱(ぶじょく)した事は忘れたのか?」


 腕を組んで大男を見上げるリオンは、身長差があるにも関わらず完全に彼を萎縮(いしゅく)させていた。


「そもそも……侮辱発言を撤回する提案自体が喧嘩を売る行為になるなんて、初耳だな」


 勝敗は決した。大男は完全に戦意を喪失して、縮こまってしまった。まるで先生に怒られる生徒のように、項垂(うなだ)れて動かない。リオンは呆れたようにその緋色(ひいろ)の髪をかきあげ、大男に命じた。


「しおらしくしてないで、早くこの人に謝れ」


 はっと顔を上げた大男は、すぐに田中に向き直って「すまねぇ!」と大きな声で頭を下げた。その様子を見ていたカクテルは、咳払いをしてから口を開く。


「リオンさん、困りますな。勇者であるあなたがそうも威圧しちゃ、職権乱用もいいとこですよ?」


 その発言に少しだけ笑いが起きたが、リオンは面白くなさそうに顔を背ける。


「困っている人を助けて何が悪い? 大体、いつからお前らは容姿で人を判断するようになったんだ。そんなの、下種(げす)がする事だろう?」


 その緋色の瞳は(あか)く輝き、真っ直ぐにカクテルを見つめる。やれやれ、と呆れた声と共に彼はため息をついた。

 田中はと言うと、勇者の対応に感心していた。彼が次に視線を移したのは、その身に付けている装備だった。


 小さく収まっており着回しが良さそうな皮の鎧。歴戦の傷が至る所に見かけられ、それが鎧を長年愛用しているのを裏付けている。

 (つか)に赤の(たま)()め込まれている剣は、腰にある(さや)に収められてはいるが、数多(あまた)の魔物を(ほふ)ってきた為か、聖なるオーラを纏っていた。


「先程は彼が済まない、悪気は……多分無いと思う。俺の名前はリオン、皆からは勇者と呼ばれているが、ただの冒険者だ。失礼でなければ、あなたの名前を教えてくれないか?」


 赤い毛並みの眉を下げ、人の事なのに申し訳なさそうに喋るリオン。前評判により彼の事を疑り深く観察していた田中は、その人柄の良さに触れて上手く表情を作れないながらも、洗練された所作で姿勢を正す。


「田中長隆です。この街に来たばかりでして、辿り着いたのが此処でした」

「田中さんですね、それはそれは……という事は、ギルドにはまだ行ってませんね」

「ギルド……」


 田中はエマから見せられたこの世界の情報を思い出す。

 ギルドとは唯一、冒険者登録が出来る施設の事で、冒険者になる事はこの世界で生計を立てる大事な手段の一つとなっている。


「いえ、まだですね」


 田中の返答に、遠巻きに様子を窺う人々は驚きの声を上げる。彼の年齢で未だ冒険者になっていない者と言えば、王族か貴族か、野盗か浮浪者くらいだった。

 しかし、そんな世間の偏見に流されず、リオンは真っ直ぐ田中を見ていた。


「なるほど……では、俺に付いてきてください。ギルドへ案内しますので!」


 自信満々に親指で己を指しながら、青年は無邪気に笑いかける。活発そうな笑顔に、酒場に居る女性陣の雰囲気が変わった。それを制するように声を発したのは、先程田中に絡んだ大男だった。


「おい田中! 冒険者登録が済んだら酒場に戻ってこいよ!」


 名前を呼ばれ、彼はうんざりした顔を大男に向ける。


「そんな顔すんなよ! 俺の名前はキョジンだ! さっきは本当に済まなかった! だから詫びさせてくれよ! 待ってるぜ!」


 そんな調子の良い事を大声で言った後、マスターに酒のおかわりをせがむキョジン。リオンは呆れた顔で、田中は困った顔でお互い見合わせた後、二人は酒場を後にした。

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