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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
34/35

異変 (5)


 あまりにもころりと変わった表情に、田中だけが呆気に取られていた。他の二人は予想出来ていたかのように余裕ぶって頷くが、(ひたい)には(うっす)らと汗が浮かんでいる。


「じゃあ、ギルドに戻りたいと思う。多分、キョウカンから用があると思うから」

「怒られるって事ね、はいはい」

「いや、違う。多分彼はあの時、引き止める理由があったんだと思う。例えば俺たちに、正式な依頼をする為、とかね」


 「俺たち?」とブシドウは首を傾げる。田中は嫌な予感がして、息を飲んだ。


「ああ、夜明けの紅月への正式な依頼だ」


 ああ、と納得するブシドウ。今度はそれを聞いた田中の表情がみるみる変わっていく。

 青くなっている田中を横目に、考えの固まった三人は互いに目を合わせて頷いた。


 ──四人が戻る間、ギルド内は蜂の巣をつついたような騒ぎが続いていた。突如現れた見たことの無い魔物、それがただの採取依頼をこなす冒険者を襲った事から全ては始まった。


 魔物の名前はヒヒャドラード、熊のような顔を持つ四足歩行の魔物で、毛深く長い手足により馬よりも早い走行を可能としている。さらに三又(みまた)に分かれた尾の先にある三種類の毒が、極めて殺傷性の高いもので知られる。

 幸いにもその尾を使うのは己が生命を脅かされた時のみであり、冒険者は重傷には至らなかった。

 さらにその個体数は少なく、生涯に産む子の数も一頭までしか確認されておらず、魔物の中では珍しく絶滅危惧種に指定されている。


 とはいえ彼らは森の奥底を縄張りとしており、最も多く観察されているモテナシ国内南にあるサウスヴァルトの森から出る事はまず無い。

 しかし、今回早くも三件の被害報告が挙がっており、国は緊急でタンジョウのギルドへと多額の成功報酬を付けて討伐依頼を送り付けた。

 結果、ギルドに冒険者が殺到したのである。


「俺だ、俺がやってやる!」

「うるせえ、お前は引っ込んでろ!」


 軽い小競り合いがギルド内のあちこちで起こり、我先にと徒党を組んだ冒険者がギルドボード前になだれ込んでいる。

 彼らは全員スキル持ちであり、ある程度の魔物討伐経験は済ませている者ばかりである。その(おご)りからか、報酬に目が(くら)み暴動にも似た騒ぎとなってしまっている。


「おい、お前らやめろ!」


 騒ぎの中、キョウカンの声が虚しく響く。左腕を三角巾で吊っている姿では、冒険者の熱気は冷めない。


「皆さん落ち着いてください! その依頼は、夜明けの紅月にお願いするものなんですから!」


 セプタが受付所からそう叫ぶと、ぴたりと声が止み、不気味な静寂が屋内を包み込む。キョウカンは自分の顔を押さえるように手をやり、小さく頭を振る。


「夜明けの紅月だってぇ!?」

「おいふざけんなよ! 俺達には選択権ねえのかよ!」

「みんなでやった方がいいだろうが!」


 (せき)を切ったように怒号がセプタに向けられ、彼女は受付所の中でしゃがみ込んで隠れてしまう。いよいよ本格的な暴動に発展しようとしたその時、ギルド入口の扉がゆっくりと開いた。


 熱狂している冒険者達は最初それに気づかなかったが、入ってきた一人の咆哮(ほうこう)にも似た声で彼らは一斉にそこに注目した。


「なんだこの馬鹿騒ぎは! お前ら冒険者だろうが! 魔物みたいな声で叫んでんじゃねえ!」


 声を張り上げる男、ブシドウの隣には険しい表情のリオンが居た。その後ろには同じく怪訝な顔つきの田中と、ゴカゴの姿もある。


「リオンだ……」

「勇者がいる」

「なんでブシドウが?」


 四人の登場に場内は静かに混乱し、狼狽える人で溢れ出す。

 しかし、少数の冒険者は四人の登場にも(ひる)まず、彼らの前に立ち塞がる。


「余裕ぶって登場とは、いいご身分だな勇者様よぉ! それに狂犬のブシドウに教会の女に、昨日調子に乗っていたおっさんと一緒とは、面白い組み合わせだなぁ! これが新生夜明けの紅月か?」


 先頭に立つその男は下卑(げひ)た笑いと共に、四人を罵倒する。風呂に入っていないのか、ぼさついた髪。伸ばし放題の無精髭、(よど)んだ目つき。彼の特徴はまさしく、無法者という表現が当てはまっていた。


 さらに、彼を取り巻く三人の似たような雰囲気の男達は、リオンらを挑発するようにわざとらしく笑った。

 冒険者の中にもこんな人間が一定数は存在する。様々な所から出向いてきているが為に、素性を深掘りしている暇が無いのだ。逆に、田中が登録出来たのはその現状に助けられたとも言える。


「なんだ、てめぇは」

「てめぇはじゃねえよ狂犬がよぉ。なんで大人しく勇者様と行動してんだよ、牙でも抜かれたかぁ?」

「ああ?」


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