異変 (3)
目つきだけで人を殺せそうな迫力があったが、オーラを出す事に意識を向けていた田中は気づかない。
「田中さんなら大丈夫、一気に強くなったからね」
「いやいや昨日会ったばかりなのに信じられるかよ、ってなんだそりゃあ!」
「えっ?」
前髪から炎のような物が出る田中に対し、ブシドウは素っ頓狂な声を上げた。
「はは、びっくりするよね。彼なりのオーラの出し方さ」
「……ふざけ過ぎだろ」
吐き捨てるように呟く声はリオンの笑い声にかき消され、オーラを出した途端に見違えるような速度で二人のペースに追いついていく田中。
「ね?」
得意げなリオンの顔を見たブシドウは、鼻を鳴らしながら正面を向き直す。田中はリオンの雰囲気がいつも通りになってきた事を感じて、少し微笑んだ。
「というか、ブシドウもマトイ出来たんだね」
「ああ? 纏い? なんだそりゃ」
「キョウカン殴った時のやつだよ」
ああ、と思い返しながらブシドウは呟く。
「じじいに叩き込まれたからな」
「じじいって、ガルマさん?」
「おい見えてきたぞ!」
リオンの声を遮り、ブシドウは叫んだ。三人の前方では黒煙が上がっており、徐々に見えてくる光景に三人の表情は険しくなっていく。
教会があったはずのそこは無惨にも焼け落ちた瓦礫が積み重なっており、外壁を残して見る影も無い状態であった。
「なんてこった、ゴカゴ……!」
ブシドウは素早く辺りを見渡し、ゴカゴの姿を探す。すると、燃える教会跡の前に立ち尽くす姿があった。
「ゴカゴ!」
駆け寄るブシドウを尻目に、リオンは注意深く辺りを観察する。田中はおろおろと二人を交互に眺めていた。
ゴカゴに近づいたブシドウは、彼女の身体が微かに震えているのに気づく。しかしそれは悲しみによるものではなく、怒りから来るものであった。
「ブシドウ、無事だったのね」
「ゴカゴこそ、怪我は無いか?」
「私は大丈夫」
振り返った彼女の目は涙を堪えている為か真っ赤に染まり、強く口を噛み締めているのが唇の震えから見て取れた。
それを目の当たりにしたブシドウは、無言で彼女を抱きしめる。その行動とは裏腹に、襲撃者に対する憎悪が顔に現れていく。
その様子を見ていた田中は、ブシドウに対しての印象を改めていた。
「ゴカゴ、良かった無事で」
「リオンさん」
顔を輝かせたゴカゴはブシドウを手で押しのけて、恭しくリオンに一礼をした。
「君のロザリオが無かったら、もっと取り乱していたところだったよ」
「お役に立ったようで、光栄でございます」
姿勢良く直立して手を前に組むゴカゴは、ブシドウには見せないような奥ゆかしさで微笑む。
ごほん、とわざとらしい咳で二人の空気に水を差したブシドウに、リオンは思い出したように表情を引き締めた。
「ゴカゴ、ブシドウ。一体何があったか説明してくれるか?」
二人の無事を確認したリオンは、そう切り出した。
しかし、ゴカゴは物珍しそうな顔で田中を捉え、小さく手を挙げる。
「あの、その方は……?」
ゴカゴがおずおずと手を向ける先には、客観を決め込む田中の姿。
「こいつはただのおっさんだ」
「あなたに聞いてません」
「ぐっ」
相変わらずブシドウには厳しいゴカゴに、リオンは思わず笑いそうになるのを堪える。
「彼は田中さん。昨日知り合ったんだけど、ケンジャに匹敵する魔力を持っているんだ」
「まあ、そう言えば昨日ギルドで見たような気がしますわ」
少しトゲのある言い方に、田中は小さく苦笑する。
「田中さんは信頼出来るよ、俺が保証する。それよりも」
「俺から話すぜ。とりあえず場所を変えようや」
ほぼほぼ鎮火した教会の周りには人が集まりだしており、目立つのを避けたかったブシドウはそう提案した。
リオンらは頷き、四人は街の北門方向へと歩みを進める。
「……あっという間だった。いきなりすげぇ音がしたと思ったら、大地が揺れたんだ」




