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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
30/35

異変 (1)


 稽古を終え、五人は訓練場から出ていくと、いつものざわつきとは違う気配がギルド内で漂っていた。


「なんだ、やけにザワついてるな」


 ジオが首を鳴らしながら、辺りを見渡して言う。キョジンもナダルも、合わせてキョロキョロと首を動かす。

 人々の中には五人にも目をくれず、会話に夢中で話し続けている者も居た。


「じゃあ僕たちはこれで」

「あ、ジオさん」


 挨拶をしようとした所を田中に止められ、挙げていた手を下ろすジオ。


「どうした?」

「えっと、今回は稽古に付き合って頂きありがとうございました」


 深々と礼をする田中に、ジオははにかむように口角を上げる。


「よしてくれ、僕らはただ身体を動かしたくなっただけだから。なあ?」


 やけに力のこもった最後の一言を受けたキョジンとジオは、取り繕うような笑顔で返した。


「あと、この技の名前があるって確か言ってましたよね」

「ん? ああ、あるにはあるが」


 気恥しそうに頬を掻くジオは、言葉尻を濁らせる。


是非(ぜひ)教えてください」

「ああ、俺も気になるなあ。ジオさんが編み出した技ですもんね」


 悪い笑顔で、田中に便乗するリオン。ジオは観念したように一息つく。


「マトイだ」

「纏い?」


 視線を合わせずに、ジオは小さく頷く。やけに自信の無い仕草に、キョジンとナダルは物珍しそうに眺める。


「なるほど、覚えました」

「俺たちが流行らせましょうね、田中さん」

「おいおい、恥ずかしいからやめろよ」


 堪えきれずに笑い出すキョジンとナダル、ジオは恨めしそうに睨むが、今回ばかりは迫力が足りなかった。

 ひとしきり笑いあった後、仕切り直すようにジオは手を小さく挙げた。


「じゃあ僕たちはここで。楽しかったぜ、リオンさん。田中さんもまた、稽古しようぜ」


 ふらふらと手を振って、ジオはウィンクする。リオンに負けず劣らず容姿端麗なその顔は、年齢も相まって色気すら感じさせた。キョジンもナダルも田中達に手を振って、ジオと共に人の波へと紛れていく。


 ジオ達が見えなくなった所で、リオンは人々がざわめく方向に目を向ける。すると、様々な依頼が紙に記され掲げられているギルドボードと呼ばれる掲示板の前に、やたらと人が集まっている事に彼は気づいた。


「田中さん、ちょっと行ってくるね」


 田中に断りを入れて、足早にギルドボートへと歩き出す。稽古疲れでもう少し休憩したかった田中は、リオンを見送りつつも待機所へと移動する。


「何があったんだ?」


 リオンはボードを囲む人混みに向かって問いかけるが、なにやら要領を得ない答えしか得られない。人によって言う事が違っていたが、共通していたのはやたら魔物討伐の依頼があるという事だった。


「どういう事だ? どれもこの近辺の依頼ばかりだ」


 リオンの知る限り、モテナシ王国内では凶暴な魔物が少なく、魔境とされているタンジョウから南西に進んだ先に大きく横に広がっているサウスヴァルトも、生態系が安定している為に魔物が出てくる事は滅多に無いとされている。

 しかし、もしその均衡(きんこう)が崩れれば、たちまちそこから近いタンジョウの街は脅かされる事になる。

 リオンは嫌な予感と共に思案を巡らせていると、不意に後ろから声をかけられた。

 彼に声を掛けたのはブシドウだ。その見た目はいつもよりも衣服やハチマキに乱れが見られ、どこか焦りを浮かべている。

 リオンは相手にしている時間は無いとばかりに最初は無視しようとするが、いつもとは少し違う彼の様子に顔を背けることが出来ずにいた。


「どうした、ブシドウ」

「リオン、助けて欲しい」


 思わぬ一言が彼から漏れた為に、(きょ)()かれるリオン。その表情は冗談を言っているわけでもなく、真剣そのものだった。

 その様子を田中は遠巻きに見ていたが、不穏な雰囲気を感じ取って思わず立ち上がる。


「ブシドウ?」

「教会がやられた」


 その瞬間、リオンは破れるように大きく目を見張った。

 タンジョウの街の北西に位置する街の外周付近、そこには街唯一の教会がある。ギルドからそう遠くない位置にあるそこに、ブシドウは寝泊まりをしていた。ゴカゴが何度か追い出しもしたが、結局は住み着いている。それは、ゴカゴ自身が幼馴染であるブシドウを受け入れているが故の優しさだった。


「ゴカゴは!」


 リオンはブシドウの肩を掴み、叫んだ。突然の怒号に、ざわめきが一瞬止む。


「わからねえ、多分あいつは教会に居なかったから大丈夫なはず」


 少し(うつ)ろげに話すブシドウ。いつもの彼のような活発さは見られない。

 ブシドウに気づいた冒険者達は、再びざわめきだす。彼の普段の行いが災いし、(うと)むように顔を(しか)めながら二人から離れていく人々。そんな周囲の反応など気にせずに、リオンはブシドウの目を見て言い放つ。


「行くぞ、教会へ」


 リオンの言葉が意外だったのか、(ほう)けるブシドウ。それを尻目に、リオンは田中を呼んだ。


「田中さん、申し訳ない。一緒に来てくれますか?」


 近くまで来ていた田中は、強く頷いた。

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