稽古の時間 (6)
──ぼうっと前髪から燃えるようなオーラが現れ、しばらく揺らめいた後に再び消える。田中はそれを繰り返すうちに、段々とコツが掴めてきたのか、安定してそれらの出し入れが出来るようになっていた。
「どうでしょうか」
「筋がいいな、もう安定するとは。流石五色だな!」
そう意地悪を言うも、裏表の無い笑顔を見せるジオに、田中は少しずつ心を開いている様子だった。
「田中さんすげぇな、こんなの一日で出来るものなのかよ」
「普通は出来ないよ、僕がそうだったんだから」
首を振って、自嘲の笑みを浮かべてジオが言う。
「まあ、例外はもう一人居るけどね」
じろりとリオンに視線を向けながら、嫌味っぽく言い放った。ジオの反応に、リオンは申し訳なさそうに笑って頭を下げる。
「僕が思うに、魔力が豊富な人ほど安定させやすいんじゃないかなと思う。ほら、身体洗う時も泡が少ないと全身に行き渡らせるのも苦労するだろ? それと似たようなものさ」
「はあ」
キョジンがぽかんとしたのを見て、ジオは顔をひくつかせた。
「はあ、ってお前。まさか風呂入ってないとか」
「あ、いや、なんてこと言うんですか! 入ってますよ! 嗅ぎますか??」
「誰が嗅ぐか!」
ジオが一蹴して、笑いが起きる。田中も皆に合わせるように笑っていたが、その顔から緊張はほとんど見られなかった。
「よし、今度は実際に戦ってみようか!」
「あの、ジオさん」
「ん? どうした?」
ナダルはお腹を押さえながら、もう昼が近い事を伝えた。
「そうか、なら隣の食堂に行くか」
ジオの言葉に、一気に肩の力を抜いていく田中ら三人。それを見てジオは腕組みしつつも、我が子を見るような目で微笑んでいた。
「田中さんなら、今日中に色々と形になりそうですね」
「ああ、そうだな。思った以上に呑み込みが早い。年齢的には今から冒険者になるのは厳しそうだったが、それを補えるくらいの素質はありそうだ」
二人の会話を聞いていた田中は、ジオの言葉を受けて素直に微笑んでいた。外見で侮られてきた彼にとって、ちゃんと褒められるという事は何よりの喜びなのだ。
──食事を済ませ、戻ってきた五人組は稽古をしていた場所に輪を作って座り込んだ。
「食ってすぐ動くのは悪手だ。いいか、外では飯は最小限にしておけ。いつ魔物に襲われるか分からないからな」
ジオはタンジョウのギルドに於いて、最も外を体験している人間である。それまでに得た心得は彼を今日まで生き残らせたものであり、それを共有する事は例え同行せずともその人の生存率を上げるであろうと信じていた。
「でも、俺たち満腹っすよ今」
「話を聞いていたのか? 外でなければいいんだ。この街を襲うほど、周囲の魔物は強くないだろう?」
「なるほど」
ナダルがお腹をさすりながら、納得したように頷く。
「俺が最後に魔物の討伐をしたのは、確かオイトマ王国に派遣されたときだったな」
「ああ、あそこは魔物の侵攻が激しいからな」
タンジョウの街があるモテナシ王国、その東に位置する縦長い領土を有するオイトマ王国。此処から更に東の森には魔物の繁殖地があり、それは一般的に魔境と呼ばれている。
それに近いオイトマ王国はいつも魔物による被害に悩まされており、隣国の街にまで魔物討伐の依頼が来るほどだった。




