稽古の時間 (5)
ジオの指示は的確で、田中は目を瞑って再び胸の前に手をやり拳を作る。間もなくして拳から光が漏れるが、それは先程と比べて少しだけ赤みを帯びているのがわかった。
「その調子だ、続けてくれ。キョジンとナダルも彼の隣に立って、ほら練習練習」
先が見えて安心したのか、ジオは二人を呼びつけた。キョジンとナダルは顔を見合わせて、そのまま田中の隣に立った。ナダルは心躍る心情が顔に現れていたが、対してキョジンは少し浮かない顔をしている。二人はそのまま田中と同じような動作で、目を閉じた。
「慣れてきたら、僕たちのように意識を集中すればオーラを纏えるようになるはずだ。ちなみにこれには名前があってな、名付け親になったはいいんだが中々浸透してなくてだな」
ジオの言葉を受けながら二人が眉間に皺を寄せて拳に力を入れていると、突如田中の前髪が赤く燃えだしたように光り輝いた。そのあまりの眩さに、ジオとリオンは少し仰け反って身構える。
「あ、あの、これはどうしたら……」
「落ち着いて、気分を鎮めて。深呼吸するんだ」
流石に狼狽えた田中だったが、ジオに言われるがまま深く息を吸って、吐きながら目を閉じた。その行動に伴って、燃えるような赤い光が徐々に小さくなっていく。
「まるで炎みたいだ」
リオンがこぼすと、目を閉じていたキョジンとナダルがようやく田中の異変に気づき、声を上げて離れた。
「な、何が起こったんですかこれ!」
「落ち着けキョジン、ただのオーラだ」
そうは言ったが、ジオの顔は晴れない。それでも、だいぶ落ち着いた田中の様子に、暴走の危険性は無いと判断して安堵の息を漏らす。
「脅すつもりは無いが、一つ気をつけなければならない事がある。この魔力を身体に纏わせるやり方だが、場合によっては纏わせた箇所が自分の意に反して動き出す時があるんだ。僕も最初はそうなりかけて、誰もいない所で訓練したものだよ」
遠い目をしながらも、自身の左腕を強く掴むジオ。
「田中さんなら大丈夫、そうなった場合俺が止めるからね」
任せろと言わんばかりに親指を立てて、サムズアップの仕草をするリオン。田中はどのように止められるのかを想像して、少し背筋が凍る思いを体験していた。
「気をつけます」
「ちなみに、ああなった原因は自分でわかるかい?」
「多分、力を込めすぎたんだと思います。上手く言えませんが、昔から力むと頭に血が上っていく感覚があるので、それのせいかなと」
前髪が光った時に笑っていたキョジンも、真剣な表情で二人のやりとりを見つめる。それと同時に、酒場で自分が絡んだ時の事を思い出し、冷や汗を流していた。
「リオンさんが止めてくれて本当良かったよ」
「ん? 何か言ったか?」
ナダルに問われるが、キョジンは無言で首を振る。
「うむ、じゃあ続きと行こうか。まずは安定して纏えるようにならないと、話にならないからな」
射抜くようなジオの眼差しに当てられ、キョジンは震え上がった。すっかり酒の抜けた彼は、先にも増して稽古に打ち込んでいく。その姿を見て、ジオは笑い、リオンも笑みをこぼしていた。




