稽古の時間 (4)
「最初は時間がかかるだろうが、大事なのは想像力。力も何も必要無い。まずは真似してみてくれ」
言われた通りに、田中も胸の前で手を握り締める。
「ジオさん優しいなぁ」
思わずそうこぼすナダルに、キョジンはいつもと違う険しい顔を見せていた。
「あれ、どうしたんだ?」
「いや、なんでもない」
その表情の意味はナダルには分からなかったが、腑に落ちないまま二人の会話が終わる。その間も成果が出ない田中を見て、リオンが思わず声をかけた。
「田中さん、焦らずに行きましょう!」
田中は迷っていた。加護の力により本来なら直ぐに発揮出来るであろう能力をさっさと発動させるべきか、否か。彼の中にはエマの言っていた「目立たないように」という言葉が、枷となり残り続けている。しかし、それはこの場においては彼を惑わせる言葉でしかない。
そうこうするうちに、田中の手から漏れ出すように光が見えだす。ただ、赤みを帯びていないそれはジオやリオンの期待したものでは無かった。
「これは……純粋な魔力の光なのか?」
呟くリオンは魔法の知識に関して言えばケンジャより遥かに劣る為、それが何か分からなかった。同じくジオも最初は判断に困っていたが、しばらくして納得したように独り頷いた。
「ふむ、ならば次は……」
そう言ってジオは、手から出していた赤い揺らめきを全身へと移していく。炎が燃え移っていくように滑らかに広がるそれを見て、田中は完成度の高さを悟る。
「これが次のステップ、だね。ちなみに身体能力強化のオーラは基本的には赤みを帯びていてね。田中さんの場合は、少し違うみたいだけども」
顎に手を添えて考える素振りをしながら、田中の光を見つめる。その時、拳から漏れていたはずの光が消え、不意に田中の前髪が強く輝き出した。全員が困惑する中、キョジンは堪えきれずに吹き出してしまう。
「キョジン」
「あ、すみません……」
睨みつけるリオンだったが、それでも動揺を隠せない。何故前髪が光ってしまうのか、田中自身にもわからない。彼は動揺して心が乱れたのか、徐々に光が弱くなり、最後には失われてしまった。
「なるほど……」
ジオは顎に添えていた手で口元を隠すようにして、何とか平静を保つ。しばらくの沈黙が、田中にとってはかなりばつが悪かった。
「ジオさん、もしかしたらですけど、田中さんにはこの稽古、非常に難しいものになるかもしれません」
「どういう事だい?」
何かに気づいたリオンは、ジオへ助言する。それは田中の鑑定石の結果についてだった。それを聞いた田中を除く三人は、驚愕した。
「五色、だと」
「まじかよ田中、いや田中さん」
「五色って聞いたことないんだけど」
明らかに狼狽えたのはキョジンで、思わず呼称まで変わってしまっている。ナダルは経験も浅い為か、そこまで気が動転してはいない。そんな中、ジオは相変わらず考え込むような素振りで田中を見つめる。
「リオンさん、これ、僕の手に負えますかね」
「いえいえ、俺の知る限り、ジオさんが身体能力強化の魔力操作に最も長けている人だと思っているので」
リオンの率直な言葉に、リオンに顔を向けてジオは乾いた笑いを返した。その目は笑ってはいなかったが、彼の中の自尊心が擽られたのか、表情には自信が蘇っていた。やがて田中に向き直ったジオは、いつもの飄々(ひょうひょう)とした仕草で口角を上げる。
「済まないね、弱気になってしまって。とりあえず、オーラの出し方は分かったね。なら今度は、そうだな……自らを強くしたいと願ってみてほしい」




