稽古の時間 (2)
「僕たちみたいに、元の身体能力をさらに増幅させる、ってわけじゃなさそうだね」
田中の身体を値踏みするように見たジオは、そこから得た分析を口にする。とは言え、田中の見た目は誰が見てもわかるくらいの虚弱なものであり、魔物に出くわそうものなら無事に生きて帰れないだろうと容易に想像できるくらいだった。
「そうなんですよ、なのでジオさんが教えてくれるなら、とも思いまして」
まだ何も知らぬであろうジオに、それとなく促すリオン。
田中はなんのアプローチもしなかったが、それを見てキョジンは首を傾げる。
「なるほどね。リオンさん、一緒に稽古しようよ。僕たちも酒ばかりは飽きてきていてね」
「え、ジオさん!?」
断られたとは言えこの後も酒は飲む気だったキョジンは、ジオの提案に声を裏返した。
「ナダルもいいよな?」
「も、勿論っす!」
威圧感ある笑顔を見せられ、情けない顔でナダルは即答した。
「しばらくは酒だけで良いって言ってたじゃないっすか!」
「そんな事言ったっけな」
わざとらしい恍けっぷりだが、ジオには強く言えないキョジンは何も言えずに歯噛みした。
「考えてみろ、リオンさんと稽古出来るんだぞ。そうそう無いぞこの機会は」
「それはそうですけど」
うだうだとやり取りをする三人を見て、田中は頭を抱える。その様子をちょうど見ていたキョウカンが、待機所に向かって歩き出した。
「おや、キョウカンがこっち来てるぞ」
「え、まじっすか!」
ナダルは身体をびくつかせ、キョジンの後ろに隠れた。彼は冒険者登録の際の試験で手酷くやられた経験があり、それ以来キョウカンの姿を見るだけで拒否反応を示すようになっている。
「何しているんだ、雁首揃えて。ん? リオンじゃないか」
「おはようございます」
リオンはキョウカンへと向き直り、軽く一礼をする。それを見て全員が、リオンに続いてお辞儀をした。
「む、田中さんも居るじゃないか。もしかして、外へ行くのか?」
「いえいえ、田中さんの稽古をしようと話していたのです」
「稽古……?」
キョウカンは田中を一瞥して、さらに後ろにいるジオ達を見渡す。
「傍から見たら、まるでオヤジ狩りの図なんだが」
「はは、キョウカンよぉ! それは酷い冗談だぜ」
吹き出したジオが脇腹を抱え、天を仰いで笑い出す。
「あ、ああすまん。お前たちの人相が悪くてだな」
「酷いっすよキョウカン! ナダルもほら、ここは怒るところだぜ!」
キョジンがけしかけるも、ナダルは野生の猫のような警戒心を解こうとはしない。田中もそんな彼を見て、共感するかのように小さく頷いていた。
「お、田中さんだったか。それは外出許可証だね? 稽古するなら預かっておくけど」
「あ、それなら」
手を差し出したキョウカンに対して、リオンは一歩前に出る。
「インベントリ!」
そう叫ぶと、リオンの手にはいつの間にか小さな布袋が握られていた。
「田中さん、俺が預かるよ。大丈夫、この袋は入れた時そのままで保管されるから」
「それは一体……」
「これはスキルの一種だよ、誰でも手に入れる事が出来るタイプのね。でもレベルがあって、所有者の経験に合わせて容量も増えるんだ」
田中から受け取った許可証を袋の中に入れながら、得意げにリオンは語る。すっぽりと許可証を呑み込んだ袋の見た目に変化は無く、田中は現世の頃に読んだ漫画に出てくるキャラが持っていた便利な袋を思い出しながらリオンの言葉を復唱した。
「レベル、ですか」
「そう、この稽古が終わったら田中さんもインベントリのスキルを付与してもらおうよ。これ凄く便利だから!」
興奮気味に話すリオンは、ふと我に返ってはにかんだ。
「ごめん、スキルとか技の話になると周り見えなくなるんだよね」
頭を掻きながらそう言うリオンを見てギルド内の女性陣は母性がくすぐられたようで、顔を赤らめて微笑んでいる。
そんなリオンを見た田中は、少しだけ笑みを浮かべた。
「にしても稽古か、良かったら訓練場でも使うか? 今なら空いているぞ」
「万年空いてるでしょあそこは」
にやけながらジオに言われ、キョウカンは無言で目を逸らす。
ギルドには訓練場と呼ばれる施設もあり、そこに隣接して食堂も設けられている為、快適に利用出来るようになっている。
が、最近はスキルによる強化が進み、簡単な依頼なら徒党を組めば簡単に達成出来るようになった。それ故に、訓練場を利用する者は月日を重ねる毎に減って行き、今や試験の時に使うくらいの頻度となっている。
「キョウカンからの許可も貰ったことだし、リオンさん、それと田中さんだっけ? 行こうか」




