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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
18/35

ケンジャの思案 (4)

 一応身構えてはいたが、家に入った後も難なく応接間に辿り着く。

 そこにはばつが悪そうに椅子に座り、背中を丸めた田中の姿があった。


「待たせたのう」


 儂は出来る限りの笑顔を見せ、リオンと目を合わせる。

 頷く彼は田中の隣に座り、儂も緩慢(かんまん)な動きで田中の対面に座った。


「田中長隆さん、じゃったかのう」


 儂の言葉一つで空気が張り詰めていくのが分かる。

 田中は俯いていて表情が見えぬが、恐らく浮かない顔をしているんじゃろう。

 リオンはまるで命乞(いのちご)いをするように、上目遣(うわめづか)いで見つめてくる。


 そんな目で見られたから、という訳ではなく、儂はもうなんと言うか決めておる。

 鼻から息を吐き切り、精一杯の笑顔を作り出して言った。


「いやはや、この子に説得されてしまってのう。儂は歓迎するぞい、パーティーに入る事を」


 ぽかんとする二人だったが、喜んだリオンは田中の背中を強く叩いて叫んだ。


「ケンジャさんありがとうございます!」


 激痛に耐える表情の田中を儂は指差して、それを見たリオンは間抜けな声を上げる。


「田中さんごめん!」

「だい、じょうぶです……」


 家に来た直後より何故か二人が打ち解けているように感じた

儂は、とりあえずの笑みをこぼす。

 若い、のう。

 別にリオンの願いに根負けした訳では無い。ここで田中を突き放した所で、どうにかなるとは思えなかったんじゃ。


 恐らく儂が出来ることと言えば、ガルマに伝えるくらいか。


 「ケンジャさん、今日は泊まっていいですか?」


 無邪気に笑うリオンは、田中の肩に腕を回している。


「構わんよ」


 田中長隆、か。一見無害そうな人間じゃが、ゆっくりと見極めていくべきなんじゃろうな。

 それにしても、肩が()ったのう。本の読みすぎかのう。


 対比的な二人を前にそんな事を思いながら、儂は立ち上がった。


「奥に湯浴(ゆあ)み出来る部屋がある。寝る時は二階を使いなさい。儂は書斎に(こも)っておるがゆえ」


 そう言い残して、儂は部屋から出る。

 もう一度調べてみよう、加護について。


 書斎の扉を閉めると、二人の声が遠くなった。古い本の香りが儂の鼻を刺激し、深く呼吸を吸ったあと、ゆっくりと吐き出した。


 ──夢を見た気がした。書斎でそのままうたた寝をした儂は、上体を起こして伸びを済ませる。

 骨が小気味よい音を鳴らし、凝り固まっていた身体に血流が巡る感覚がした。


 時間は、大体朝か。書斎から出た儂は歩きながら通路と部屋にある丸い窓の外を覗き、薄暗いが徐々に明るくなってきているのを確認した。

 少し早く起きすぎたか。

 儂は台所に赴き、天井から生えた紫色の果実と緑色の果実を手に取り、緑の方をもぎ取って搾り上げる。

 そのままリズム良く二つのコップに果汁を垂らしていき、搾り(かす)は壁に押し込んで取り込ませた。


 搾りたてのミーロのジュースからは甘い香りがして、儂はその香りを閉じ込めるように液体の表面に氷の呪文をかける。

 これであやつらのための飲み物は完成じゃ。あとは……。


 そうこうしてるうちに、階段を降りてくる音が聞こえてきた。

 振り向くと、まだ眠そうなリオンが欠伸をしながら姿を見せる。


「なんじゃ、早いのう」

「いや、用を足したくなりまして」

「ああ、それなら湯浴みする部屋の近くにあるぞい」


 リオンを導いて、儂は再び台所に向かう。

 飯は魔法で保管されてあるし、あとは用意するだけにしてある。

 そうじゃ、あれを作ろうか。

 鼻歌交じりに壁に埋め込まれた豆を(つま)んで、強くもぎ取る。

 茶色いこの豆を(せん)じると、とても良い香りがするんじゃ。

 儂はこれにお湯をかけて、そこから濾したものを飲むのが日課なんじゃよ。


 名前も知らぬ豆を魔法で煎じて、自分用の飲み物を作り出す。


「良い香りですね〜」


 台所中に漂うフレグランスな香りに気分を良くしていると、寝癖のついたリオンが後ろに立っていた。


「じゃろう? 儂はこれが好きでのう。それより、もう寝なくていいのかえ?」

「ええ、目が覚めてしまったので」


 頬を掻きながら照れくさそうにそう言って、台所に入ってくるリオン。


「なんじゃ、腹が減ったのか?」

「恥ずかしながら」

「ふむ、まずは湯浴みしてくるといい。儂が用意しておくから」


 リオンが行った後、しばらくして田中も降りてきた。


「お主……」


 触れるべきか迷うくらい、前髪しかないはずの彼はとんでもない寝癖を付けていた。

 むしろどうやって寝たら、そんな天使の羽のような形に広がるんじゃろうか。


 儂はリオンと同じように田中へ湯浴みを提案し、二人がそれを済ませている間に応接間に食器を並べていく。


 やがて帰ってきた二人は、いそいそと食器が並べられたテーブル周りに座っていく。


「朝はブレアで良いかの?」

「お願いします!」


 穀物類(こくもつるい)発酵(はっこう)させたものを焼き上げると出来上がるブレアを、魔法で保管庫から取り出してそのまま食器の上に着地させる。

 ブレアの見た目に驚いた表情をする田中を見て、儂はもう一つ驚かせてやろうと表面を凍らせておいたミーロ入りのコップを二人の前に並べた。


「これって」

「ミーロの果実ジュースじゃ。表面は薄く凍らせておるから、直に溶けるじゃろう」

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