ケンジャの思案 (2)
ゆっくりと机の上に着地していく容器を見て、田中はぽかんとした反応を見せる。
「どうされた、田中。そんなに驚いた顔をして」
「いえ、あの、湯のみが浮いているので」
なんじゃ、魔法を知らんのか。
しかし、この世界に生きている以上、この程度の魔法すら知らぬのは考えられん。
「こんなの、魔法の世界では常識じゃろう」
「またまた、ケンジャさんくらいでしょう。誰かと話しても魔力が途切れないお方は」
リオンに言われて、なるほどと思った。
儂は日常的にしておるが、本来はこの芸当をするのにそれなりの集中力が必要であろうな。
納得した儂はアプレジュースに口をつけるリオンに、この男について尋ねた。
すると、なにやらガルマの爺に言われて、無理やり儂らのパーティーに加入させたと言い出した。
別に儂は構わんが、シャイマスの娘はどう思うかのう。
「して、何故わざわざガルマはリオンに申し付けたんじゃ? 彼は今日登録したばかりの、駆け出しの初心者じゃろう? ちと荷が重すぎるんじゃなかろうか?」
そう言うと、リオンは登録の際に起こった出来事を順を追って話し出した。
「なんと! 鑑定石を五色光らせたじゃと!」
思わず大声を出してしまった。二人は肩を震わせ、顔色を窺うような目でこちらを見つめる。
鑑定石は全部で六色まで発する事が出来る。が、それは本来その者がより色濃く持つ魔力を一種類ずつに分けるための区分としての六色であり、それが五色も光る事なぞ普通ではない。
恐らく儂でさえ、五色は光らんじゃろう。
人畜無害そうな顔をしてこの男、とんでもない逸材であったか。
しかし、ちと疑問が残る。それほどの魔力を有している割に、彼からはそこまで魔力の波を感じぬ。
疑問に思う儂は、いくつか質問してみる事にした。
「して、田中は今まで魔法に携わった事はあるのかのう?」
「無い、です」
無いとな。特に焦りもせずに言い放っているこの男じゃが、自分がどれだけの潜在能力を有しているか理解しとらんのか。
「驚いたのう、それでいて不思議じゃのう。まるで取って付けたような魔力量じゃ」
儂の言葉に反応したかのように、田中はぎくりと肩を緊張させる。
自身の能力には気づいておるようじゃが、何故それを隠そうとしているのか。
「田中さん、田中さんのスキルについて話してもいいかな?」
「あ、はい」
「なんじゃ、スキルも特別なのか?」
「ええ、実は、彼のスキル名が誰も読めず、唯一分かったのが何かの加護を受けているという事でして」
「加護、じゃと……」
まさか、加護を持っているとは!
いや、これで説明がつくな。こやつの魔力は恐らく加護によるもの、だから平時では魔力の気配を感じないんじゃ。
しかし、儂の知る限りそんな強力な加護は過去に存在しないはず。儂の師匠である爺さんが確か持っていたくらいで、その時は精霊由来のものであったが、今回は何者なのかも分からぬときた。
「あの、ケンジャさん? 加護について何かご存知で?」
リオンに声を掛けられ、儂はしきりに顎髭を上から下に撫ぜている事に気づいた。
「ん、ああすまんすまん。少し考え事をしていてな。加護というのは、その名の通り何者からの力を分け与えられている状態じゃ。少し言いにくい事じゃが、彼の場合加護によって魔力が与えられているのじゃろう。じゃが、スキルとして存在している以上、紛れもなく彼自身の能力じゃ。落胆する事は無かろう」
ちらりと田中の表情を窺うが、その顔には恐れも焦りも見当たらない。
自らの力では無いと暴かれた所で、特に支障は無いという事か。
むしろ安堵の表情すら窺えるあたり、誤解を解いてもらえた事に感謝すらしているのじゃろうか。
「ふむ、興味深いのう。して、田中よ。リオンと知り合う前は何をしておったんじゃ? それほどの加護を得ているからには、何かあったと思うんじゃが、差し支えなければ教えてくれまいか?」
「過去、ですか」
そう言い淀む彼を見て、儂は顎髭を撫でた。
訳あり、じゃのう。




