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英雄団……と田中さん  作者: ドル チイダ
勇者一行との出会い
14/35

ガルマからの提案 (4)

 余裕を見せるブシドウを尻目に、リオンは懐から何かを取り出す。それは田中が知る所で言うと十字架の見た目をしており、一般的にロザリオと呼ばれるものであった。

 それを見た瞬間、ぎょっと目を開くブシドウ。

 リオンはそれを胸に預けて小さく何かを唱えると、小さくも強い光がロザリオの周りを覆うように光り、そして消えた。


「お前、まさか!」


 ブシドウが絶句していると、突然ギルドの出入り口方向から音が鳴り響く。

 そこには可憐な顔に似つかない憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべた、修道服姿のゴカゴが立っていた。


「うわぁ! ゴカゴ!」

「ブシドぉぉぉぉお!!!」


 彼女は驚くほどの俊足(しゅんそく)で、ブシドウの元へと走り出す。

 最初に見せたお(しと)やかさは無く、蛇に睨まれた蛙のように動けないブシドウはそのまま彼女の飛び蹴りを食らった。

 彼は衝撃に従って真横に吹っ飛び、その先に居る人々は慌てて逃げ出した。そのまま無人のテーブル席に椅子を巻き込みながら突っ込んだブシドウは、地面に仰向けで寝転がったまま間の抜けた(うめ)きを漏らして手をブラブラと揺らす。


「私がお祈りをしている時は邪魔しないでちょうだい!」

「呼んだのはリオンじゃねえかよ〜」

「貴方のせいでしょ!」


 そう言いながら近づいた彼女は、恥ずかしげもなく足を上げ、ブシドウを踏みつける。

 呼び出した張本人は気の毒そうにその様子を見つめ、(かたわ)らに居た田中は、またしても大きく口を開けてその様子を眺めていた。


「なんの騒ぎだ!」


 試験を行っていたキョウカンが扉から飛び出したが、惨状を目の当たりにした瞬間に大きなため息をついた。


「ブシドウ、ゴカゴ、ちょっと来なさい」

「なんでだよ俺は被害者だろ!」

「あ、私、すぐ戻らないといけないので……」

「来なさい!」


 引っ張られていく二人が扉の中に消えて、気まずい静寂が流れる。しかし、彼らのやり取りはタンジョウ名物と化しており、段々と活気づいていく場内では彼らの話で持ち切りとなった。


「えっと、田中さん。行きましょうか」


 気まずいリオンは困った表情で声をかけ、田中は無言で何度も頷いた。


 ──二人がギルドを出るとすっかり陽が傾いており、強烈な逆光に思わず手をかざす田中。

 人通りは変わりなく、子供を連れた親子も散見される。この時間になってもタンジョウでは屋台が主流であり、人々は誘われるように買い物を済ませていく。

 さらに一部の屋台では色硝子(いろがらす)の付いた小さな容器を準備する様子も見られ、それを屋根の外側に垂らすように引っ掛けている店主の姿もあった。


「あれは照明器具ですか?」


 容器が目に()まった田中は、それを指差して横を歩く勇者に尋ねた。


「しょうめいきぐ? ああ、リグトの事か。あれは中に光の魔法を留めるための物で、それによって太陽が居ない時間帯でも(あか)りを確保できるんだ」


 タンジョウの街に限らず、この世界では全てが魔法で(まかな)われている。田中の知る世界で言う電力でさえ、魔法一つで(かな)う世界だ。実際に目にした田中は感心し、改めて街を見渡した。


 ギルド内では多種多様な人種が目立ったが、外ではほとんど亜人を見ることは無い。彼らのほとんどは冒険者になる事で生計を立てに来た村の出身であり、依頼を受けていない時は夜遅くまでギルドか酒場に入り浸り、取っている宿で湯浴みを済ませて寝るだけの生活を送っている。


「そういえば、お腹は空いてないかい? 試験が長引いたから、俺も昼を食べてなくてさ」


 そう言った彼は屋台の方を指差し、田中に視線を合わせた。

 しかし、彼は金銭(きんせん)の類を持っていないがために目を泳がせる。


「良いんだよ。田中さんはもう俺たちの仲間なんだから、遠慮せずにほら!」


 肩を抱えられて、流されるように屋台へと足を運ぶ田中。


「いらっしゃい、お、リオンさんじゃないですか!」


 屋台の中で(かが)んで準備を進めていた店主は、リオンの顔を見て人懐こそうに笑った。


「とびきり美味いメエツを二つ!」

「あいよ!」


 じゅうっと目の前で肉汁を(したた)らせながら焼かれる肉串焼きを見て、田中は喉を豪快に鳴らす。

 彼が最後に食事をした時間は不明だったが、食い物を見た瞬間に猛烈(もうれつ)に腹が減った彼は思い出したかのように腹を鳴らす。


 それを聞いたリオンは、満面の笑みの店主から貰った串焼きを先に田中に渡した。


「ありがとうございます」

「お礼はいいから、ほら、ガブッと行きなよ!」


 串焼きを受け取った田中は小さく礼をしたあと、豪快に肉に食らいつく。そして串を引いて、肉を口の中に収めて大きく咀嚼する。見た目に似合わずその食いっぷりは良く、それを見ていたリオンもメエツに食らいつく。

 

「美味いです」


 自然と笑みをこぼす田中を見て、リオンは屈託(くったく)なく笑った。


 太陽が影を落として居なくなった頃、色硝子により光り輝く街中で、二つの人影は屋台を渡り歩いていく。その足取りはケンジャの待つ方角へ向きつつも、のらり、くらりとタンジョウの街を堪能(たんのう)していった。

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