ガルマからの提案 (3)
──数分後。二人はリオンが待つ受付前まで戻り、ガルマは事情を説明する。
「田中さんを俺……僕たちのパーティーに!?」
「ああそうじゃ、田中くんきっての希望での」
リオンは困ったように頬を掻きながら、ガルマからの言葉を咀嚼していた。
彼が属するパーティー、《夜明けの紅月》には現在メンバーが三人居る。勇者リオンと、魔法使いのケンジャ、そしてマタノオコシ王国第一王女であるリアナである。
リアナは王女の身でありながら、父王シャイマスの反対を押し切って、ギルドで冒険者登録までしてしまった人物である。当然そこに至るまでに数々のいざこざがあったが、それはまた違うお話だ。
結局リオンは根負けするように話を受け、満足したように頷くガルマは再び階段へと足を運ぶ。人々は恐れるように道を空け、ブシドウはわざとらしく彼の視界に映り込む場所に仁王立ちをしていたが、一瞥すら寄越さないまま去っていくガルマに対して、悪態をつくように鼻を鳴らした。
ギルドマスターが去った後、場内はいつもの賑やかさを取り戻すが、空いている椅子にどすんともたれかかったリオンの顔は浮かなかった。
その様子を遠巻きに見ていたブシドウは何も言わず、腕を組んだまま田中の事をじろりと見つめる。田中はブシドウに苦手意識を持っているのか、目を合わそうとはしない。
やがて田中に焦点を合わしたリオンは、無理のある笑みを浮かべた。
「田中さん、正直大歓迎だよ。でもちょっと、そうするとなると問題が出てきてね」
「リアナか」
再びリオンの元に近づいてきた仏頂面のブシドウが、間髪入れずに言う。
リオンは人差し指を口に近づけるジェスチャーを挟もうとするが、途中で諦めて手を下ろした。
「俺より問題児だもんな、あの女は」
「言葉に気をつけろ、ブシドウ」
釘を刺したリオンだったが、悩みの種がリアナである事は田中にとって容易に分かる事であった。
「リアナさん、マタノオコシ王国の第一王女の方ですね」
田中はエマから得た情報を思い出しながら、片言のように述べる。
「ああ、彼女は俺のパーティーに入っててね。立場が立場だから、普段は集まりもしないんだけど、田中さんが入ったからには紹介しないと、ね」
後ろめたそうに語尾をぼかすリオン。その姿を見て、ブシドウは悪戯めいた笑みを浮かべる。
「このおっさんを王女様に紹介するって? やめとけよ、打首になるぞ」
「ブシドウ!」
さすがのリオンも勢い良く立ち上がり、へらへらした顔のブシドウに詰め寄る。田中はそれをおろおろとしながら見ることしか出来ず、ブシドウは彼を見てますます口角を歪ませる。
「見ろよ、俺たちを止めるわけでもなくただ狼狽えてるだけのおっさんを。いくらじじいの提案でも、よく考えた方が良いんじゃねえか?」
リオンは悔しそうに歯噛みし、怒りに震える身体を落ち着かせて長い息を吐いた。
すると、彼は田中にギルドを発つ事を提案する。
「おい、どこに行くんだよ」
「ケンジャさんの所。田中さんを紹介しないといけないから」
「ああ、爺さんの所か。てか、お前本気でこのおっさんをパーティーに入れるのか?」
「お前には別に関係ないだろ」
突っぱねられたブシドウは、「あん?」と眉を寄せる。
「なんだよその言い方は。そもそも、俺はお前と勝負するのを忘れてないか?」
鼻の穴を膨らまして憤る彼に、リオンはため息混じりに言う。
「はあ、ゴカゴに連絡しようか」
「は? やってみろよ! 大声で叫ぶのか?」
舌を出してからかうブシドウの顔を見て、田中は小さく首を振った。何もしない未来で彼がどうなったかを知る田中にとっては、特に意外でもない性格を目の当たりにしているせいだろう。




