魔王を討伐したあの日から
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──魔王討伐は成った!
長きに渡る戦い、その決着は渾身の力で放たれた俺の必殺技によって終わりを迎えた。地響きと共に、二つになった魔王の身体が地面に落ちる。俺はしばらくの残心の後、爽やかに振り返り、共に戦ってきたメンバーの顔をそれぞれ見渡した。
魔法使いのケンジャ、格闘家のブシドウ、僧侶のゴカゴ、そして女剣士でありマタノオコシ王国第一王女であるリアナ。
そして、田中さん。
皆が居なければ、ここまで来れなかった。全員が力を使い果たしてようやく成せた偉業に、思わず涙が込み上げる。
「やりましたのう」と、ケンジャが白い顎髭を触りながら笑いかけ、「最後は良いところを取られたな」と、ブシドウが腕組みをしておどける。
「これも神の御加護……あ、私の事では無いですわ」と、いつもの口上を反射的にしてしまうゴカゴ。
そして……。
「リオン!」
「リアナ!」
「おやおや、お熱いねぇ」
茶化すブシドウを睨みつけるが、リアナも一緒に睨んでいる事に気づいてお互いに声を出して笑い合う。
顔や鎧には傷や汚れが付き、一国の王女とは思えないほどの泥臭さに塗れても付いてきてくれた彼女。
これで生きて帰れたら、ようやく一緒になれるんだ。
ひとしきり笑ってリアナを見つめる。目が合って彼女も微笑む。
しかし、水を差すかのように鳴動を始めた城によって、現実に引き戻された。
「さあ早くここから離れましょう! 魔王の魔力が失われたせいで、城が崩れようとしているわ!」
逼迫したゴカゴの声が響き渡り、再び皆の顔に緊張が走っていく。
「よし、じゃあ来た道を……」
「いや、それじゃあ間に合いませんぞ」
「おいおい、余裕だな。目処はあんのか?」
嫌な地鳴りが聞こえる中、俺達は立ち尽くした。言葉が思い浮かばず、魔王の死骸をただ見つめる。
「おのれ魔王め! 最期まで卑劣な!」
リアナが拳を震わせながら、怒りと共に吠える。その声は地鳴りに虚しくかき消され、いよいよ迫る絶望がゆっくりと浸透していく。
俺もリアナも、ブシドウもケンジャもゴカゴも、皆万策が尽きたように動かなかった。
せっかく魔王を倒したのに、何も出来ないまま圧死すると言うのか。
嫌な想像で心が折れかけ、膝が崩れ落ちそうになったその時。
「あ、ここ入れそうです」
いつの間にか居なくなっていた田中さんが、魔王が座っていた玉座の後ろから顔を出して、冷静な声でそう言った。
「なんだって! まさか隠し通路か!」
「やはりありましたのう、脱出の糸口が」
先程までちぎれる程に髭をさすっていたケンジャは、落ち着きを取り戻して思わせぶりに呟く。
「いや爺さん、あんたさっきまで……」
「もう時間が無いわよ! 早く行きましょう!」
ブシドウの言葉を遮るゴカゴが皆を促す。俺達はボロボロの身体に鞭打ち、田中さんの居る玉座の後ろへと駆け込んだ。
しかし、そこは少し入るともう行き止まりで、脱出口では無かった。
「そんな、行き止まり……」
「ここまでなのか……」
「ええいこうなりゃ、俺が瓦礫を受け止める! 皆俺の後ろに」
そうブシドウが覚悟を決めた瞬間、横を田中さんがとことこと通り過ぎて、通路の入口付近で立ち止まり、
「うん、ここに居たら大丈夫ですね」
と、振り返りながら微笑んだ。
田中さんには何回も助けられた。そんな彼が言うなら間違いない。俺は自分を奮い立たせ、彼の言葉に希望を託した。
「間も無く崩れます!」
ゴカゴの叫びで、近くに居たリアナの手を握る。
「リオン……!」
「リアナ、大丈夫だ。田中さんを信じよう」
勇気づける言葉も、震え声で台無しだ。回復薬も尽きて魔力も尽きた今、生き残れる確率は低いだろう。ブシドウだって、本当は立っているのもやっとなはず。そんな俺達に、この無駄に積み上がった石造りの魔王城の瓦礫群を受け止める体力は、もう無いのだ。
「……田中さん、あんたを信じるぜ」
ブシドウからそう声を掛けられた田中さんは、微笑んだまま頷く。
「おじさん達、どうしたの?」
リアナを抱き寄せて震える背後で、地鳴りに紛れて子供の声が聞こえたが、その後に聞こえた悲鳴と笑い声で全て掻き消された。




