第3話~罠にご注意~
「ここを!キャンプ地とする!」
水辺の平らな場所に背負っていた武具を降ろした俺は早速取りかかった。キャンプといえばそう!火起こし!
「幸い金属がいくつかあるから~、こいつらを打ち合わせて火花を起こせば…………………」
キンキンと金属が打ち合わさる音が響くこと数分。漸く火がついた
「いよっしゃぁぁぁ!……………なんだろう、こう、揺れる火を見てると何とも言えない安心感が……………」
人間が他の獣から枝分かれした瞬間は火を恐れずに生活に取り入れた瞬間だという説がある。それ故か揺れる火に底無しの安心感を覚える。
「さてと、次は水だ。すぐそばに水があるしちょっと味見してみよう」
水辺に近づき手を水に入れた瞬間
「へ?」
バシャン
突然水が動いた。彼を包むように水が宙を舞い
「うご!?ガボボボボ」
水に引きずり込まれた
「何だ!?これは!?不味い………………息が……………………」
「ブハッ!ゼェゼェゼェ」
死んで目覚めたのは火を起こしたキャンプ地。側の水辺は何事も無かったかのように静かだ
「なんじゃあの水は!?罠か!?」
あの瞬間明らかにあの水は意思を持っているかのように動いた。こんな乾いた土地にポツンと存在する水辺、しかし生き物が生きる上で必須な水辺にどうして生き物が住んでいる痕跡が無いのだろうか?
「冷静に考えるとこんな土地で水辺に生き物の痕跡が無い筈がない。迂闊だった。うっ、まだ意識が遠退く感覚が……………おえっ」
死なずとはいえ苦痛は味わう。その点では窒息死は苦しみ抜いて死ぬため精神に堪える。
「しかし…………ここで蘇るのか、ということは火が拠点の要件なのかな?火を絶やさないようにしないと」
幸い蘇ったお陰で喉の乾きや空腹感は無い。
「よし!こんなところにいられるか!俺は街に行くぞ!」
その後長居は無用とばかりにキャンプ地を後にする。途中で死んでも良いように火は残してある。
「川があればいいんだが…………往々にして川沿いを中心に街は構築される」
歩く、歩く、歩く。方角を定めひたすらに歩く。不毛の土地ゆえか魔物の類いはほとんどいない。
「いい加減別の景色が見たいよ。ずっとこんな不毛な土地じゃないだろうな?」
起伏を越えて歩いていると。ふと目に飛び込んできた。
「壁だ!街だ!いよっしゃぁぁぁぁ!」
しかしさっきと同じ無人という可能性もある。リスポーン用に小陰に火を起こすと一直線に街へ向かった。
「でっけぇ。しかも人の声もする。無人じゃなさそうだ」
壁越しに微かに聞こえる人の声。それはここが街として機能していることを意味する。
「入り口はどこだ?おっ、門らしきもの発見」
壁に一ヶ所だけ重厚な門があった。固く閉じられたそれは全てを拒絶するがごとき佇まいだ。
「門番とかいないのか?おーい。開けてくれぇ!」
「誰だ?」
小さな覗き穴から問われる。
「住んでた街が襲われて、さ迷ってたらここへ」
嘘ではない。実際にここに来るまでに滅んだ街があった。
「ふむ、確かに滅んだ街があったな。しかしあれが滅んだのは結構前だぞ?よく生きてたな。っとその前にだ」
「?」
「手を出してくれ。種族の確認をしないといけない」
「種族?俺は魔物なんかじゃ無いですよ?」
「魔物ですって魔物が言うと思うか?どれどれ…………なんだ、不死人か。道理で生き残る訳だ。入れ」
「えっ?ありがとう、ございます」
『不死だぞ!?なんでしれーっと受け流す?まさかこの世界で不死ってありふれてるのか?』
❬壁の中❭
「よく来たな、名も無き街へようこそ、歓迎しよう、盛大にな」
「名前無いのか?」
「ああ、勝手に人が集まって壁を築き暮らしている。知らないかもしれんがこの世界で名前がある街の方が少ないぞ?」
「そうなのか…………」
「その世間知らずっぷり、不死になりたてか?中央の辺りに小さな図書館がある。そこで常識を身に付けてこい。忘れないように気を付けるんだな」
「?ありがとう。行ってみる」
門番の言葉に引っ掛かりを覚えつつ図書館へと向かった。
「行ったか、新米め」
それを見送った門番は苦笑いを浮かべる。
「一体後何年持つかね?」
そう呟いた門番は再び覗き穴へと戻り、業務を再開した。