テト編 第四章 テトとらんねと眠り姫
私は姉になったのだ。
絶対に妹たちに辛い思いはさせない。
なんだかウキウキ気分で、今日からの休日二日め。何をしようか考えていると、
「テトねーちゃん!!」
後ろから大声と足音が聞こえてきた。そしてその何者かは、バッと私を後ろから抱きしめた。この声は!
「らんね?」
小柄な何者かは顔をこちらに向けた。丸くてくりくりしているおめめは黒い瞳が嫌われる理由。だけど私はそんなこの子が好き。らんね。
「らんね!?元気にしてた?」
私も抱きしめ返す。らんねは、何年か前からこの孤児院で受け取る話だったのだが、かなり複雑になっていて、今まで遊びにくるだけだった。だがこの度やっと正式に孤児院の仲間入りを果たしたそうだ。
「会いたかった〜」
らんねは、もっと強い力で抱きしめてきた。私も嬉しくって、ギュッと抱きしめた。
「ふーん。ねえちゃんも色々と大変だね。」
これまでの出来事を大方話終えると、らんねは、感心したようにこちらを見た。
「おめでとー!正式にねえちゃん」
(ふふ、やっぱ可愛いな)
「ありがとう。らんね」
「えへへ、そういえば、今日新しい子が入ってくるって!らんねとは別に」
「へーどんな子?」
「知らないけど、ねえちゃんがお世話係になるって言ってた!」
「ふーん」
なんだかよくわからないけど、どうでもいいや。とりあえず今はらんねといるとなんだかふわふわして楽しい。落ち着くし、眠たくなるし、疲れたなーちょっと休憩しよう。
そう思ったらまぶたが重たくなってきて、私はそっとらんねの肩で目を閉じた。
「おーきーてー」
布団をバッサンバッサンと上下に揺らし、一生懸命起こしてくる双子の頭。そしてそこには、らんねの頭も。可愛い。
「なに?そういえば誰がベッドまで運んだの?」
起き上がるとヒョコヒョコと小さな頭達は慌てて隠れた。(私の話は無視か。。)
「もー、どうしたの?」
見るとアニー、アトメそれとらんねが目をくりくりさせている。
「ごめんね、今起きるよ。今何時?」
私はパッと時計を見た。
針はお気に入りの位置。
3時の方向にさしていた。
「よぅし!おやつだ」
私は一目散に階段を駆け下りた。
「わっ、待ってー」
三人が私を追いかけて走る。
私はテーブルの上に置いてあるお菓子を七つ掴んだ。
「よし!ゲット!みんなで分けるぞ〜」
「あいあいさー」
手の中のお菓子を2つずつアニーとアトメに渡した。そしてらんねにも。残りの一個を私が食べる
「美味しい〜」
そう言えば、今日習った古代語でこんな意味の言葉があったような…?
ほっぺたが落ちる。そう!これ!
「ほっぺたが落ちる〜」
私は自分のほおを抑えながら言った。
「頬が落ちるわけないでしょう?」
アトメが私を嘲笑した。
「バカね?そう言う言葉があるの!覚えとくと便利だよ」
アトメはまだ信じていない様子だった。
「別にいいよ!信じてもらわなくても!」
私はフイッと顔を背けた。
「そういえば、みんなは?今日休日じゃん」
「さあ知らないけど、私ならいるよ?」
私の問いに答えたのは、新しく入ったキャロという子だった。みんな口を開けて固まった。
「ああ、そうそう。院長先生方は先程、らんねさんと私の分の生活用品を買いに行ったところですよ」
『えっ誰?』
この時だけだよ。初めてアトメと気が合ったのは、て言うか、三人全員ぴったりだったのは。
「どもども、キャロっす。新しくきましたさっきもなんか一人で寝そべってるテトさんをベッドに移動させるの大変だったんすよ」
と言いながらも一応ペコリとお辞儀したキャロを、礼儀正しい子だなと思ってしまったことは秘密にしておこう。
「貴方様がテトさんですか?いやーお初っす。」
「えとーキャロさん?どうして孤児院に?」
私は特に意識せずこの質問をした。質問した瞬間にキャロはアイマスクをつけて寝てしまった。
ふさふさの青い髪の毛。くるくるとうねってる前髪。キラキラと光る額と首の天使の紋様。この子を捨てる理由はなんなんだろうか。少なくとも世の天使がこんな子を捨てるはずがない。おかしい。きっとこの子も私たちを笑うんだ。
…?でも、どうして急に眠りだしたのかな?体調が悪かったのだろうか。まあいいや。起きてから聞こう。
私は、キャロの額の紋様をさっと撫でた。この子はどうしてここのいるんだろう。早く帰ればいいのに。私のことをどう思ってるんだろう。黒眼を見なければきっと私は軽蔑されない。でも眼帯で気づかれるかな、
なんて考えながら私はキャロのベットの横で眠ってしまった。キャロの腕を枕にしちゃったけど、暖かくて心地よかった。
「ん?あー。さーせんテトさん私起きるんでどいてもらっても?」
キャロの声。なんだろうと目を開ける。
「ひえ」
目が覚めて、キャロの腕がよだれまみれだったのに気づいて急いで拭った。
「やーごめんごめん。ついね?へへ」
どうにか誤魔化せないものか、初日からこんな失態ありえない。
「ふふ、テトさんって意外と可愛いっすね」
年下に言われると屈辱的なんだが、、、?あれ?年下なの?身長的には、キャロの方が上なんだけど?
「あの、、何歳?」
えっと戸惑ってからキャロは
「レディーに年聞くとかテトさん失礼です」
と茶化してくる。
「まあ102っすけど」
照れながら答えた。(なぜ照れてるのかは謎)
「ひえっ、同い年」
しばらく沈黙が続いた。
「んん、この場合姉さん呼びの方がいいすか?」
咳払いをして、首を傾げるキャロ。
「正直どっちでもいいけど」
でも姉さん呼びがいいな、とか思ったりして
「じゃあ、テト姉さんで!」
元気よく言ったその時のキャロのあの笑顔が可愛すぎて頭にこびりついてる。
「ねえ、キャロ。どうして貴方は孤児院なんかに?どこにも欠点要素はないし、立派に生きていけるのに、、」
私がお茶を入れながらゆっくりキャロの方を向いた。キャロはなぜだかしかめっ面でむすっとしていた。
「姉さん、もしかして私のこと孤児を差別する人間だって思ってないすか?」
キャロの言葉に何故だかぎくりとした。実際そんなことは思ってもいなかったがもしかしたら心の隅。無意識のうちにそう、思っているのかもしれない。だが、実際差別をしてくる人がほとんどだ。だから警戒するのは当たり前。
「ごめんごめん。つい、、でもね、差別をしてくる人がほとんどだよ、それが現実」
私はお茶をポットからコップに注ぎながら言った。
「私たちは不良品なんだよ」
なんでこんなことをキャロに言ったのか自分でもわからない。キャロはもっとむすっとして、
「姉さん、貴方の眼帯は欠点ですか?らんねさんの黒眼は悪いんですか?孤児院の子供達はみんな汚くて悪い子ですか?」
キャロは声を荒げて、私を見つめた。私はキャロと目を合わせることができなくて、目を伏せた。なんで目を伏せたのか、自分でもわからなかった。
「汚くなんかないよ。でもあいつらは、汚いって言うよ?なんで?なんでなの?キャロもそう思ってるんでしょう!」
私はなんだかイライラして、声を荒げて怒鳴った。
「いいや!違いますね、一番汚いと思ってるのは姉さんでしょ?あった時から思ってました」
「そんなわけないでしょ?私がどれだけ傷つけられてきたと思って!!」
私はなんだか悔しくて、涙が溢れそうになった。そんな私をみてだか、キャロは落ち着いた口調で話し出した。
「姉さんは怖いんですよ。傷つくのが。だから相手の気持ちを理解しようとせず、自分から傷ついて終わるんだ」
キャロが何を言ってるのか理解ができなかった。
「んーと、だから、姉さんは相手を知ろうともせずその他大勢にして避けてるんじゃないんですか?」
キャロはずっと私を見つめてくる。怖くて視線を避けてたいたが、私もキャロの方を見た。
「現に今も私のことを知ろうとせず、孤児院にきたことを怪しがってたじゃないですか」
確かにキャロの言う通りだ。私はキャロと差別してくる者を一括りにしていた。
「今まで誰一人として、姉さんを受け入れてくれた天使はいなかったんですか?」
いや、そんなわけはない。らんねもアトメもアニーも受け入れてくれた。彼らにも欠点があるとはいえ、私を受け入れてくれた。そして、何よりナノだ。ナノは私の秘密を知ろうともせず、私を受け入れてくれた。
「ねえキャロ。私、勘違いしてた。クラスの子も差別してくると考えて、自分から避けてた」
私は視界が潤んだ。ポロポロと大粒の涙がこぼれた。堪えていたはずなのに。
「…まぁ、良いやつばっかじゃないから、辛い思いした時はいつでも言ってくださいよ、力になりますから」
キャロが恥ずかしそうに照れながらも椅子から立って、私にハンカチを渡してくれた。キャロはやっぱり恥ずかしいのか頭をかいていた。
「うん、グズ。ありがとう」
(ああ、私はずっと受け入れて欲しかったんだ。差別を止めるのは自分だったんだ。自分から人との間に距離を置いてたんだ。よし、今度みんなに話しかけてみよう。きっとどうにかなる!)
「キャロ。私お姉さんとして頑張るね」
笑顔で答えた私を見て、キャロがちょっと照れたのは、可愛そうだからみんなには内緒にしてあげようと思った。なのに何故だかキャロはむすっとした。そしてまた眠りについた。