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混血の兄妹 -四神の試練と少女の願い-  作者: 伊ノ蔵 ゆう
第2章 四神 ー4玄武
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4-8 霧亜と生命禁術

「てめえ、のこのこ出てきてんじゃねえ!」


 オレは秀架に向かって滝のような大量の水を降らせ、薄く鋭い風を練り上げるとその円盤のような風を投げた。

 風は滝を切って猛スピードで秀架に向かっていく。秀架からは風は見えないはずだ。


 秀架に当たったかと思ったが、クイが秀架を抱えて隣へ飛び退いていた。


 二人に向かってオレは走り込む。

 もう、何でもいい。傷を負わせるだけでも、こいつが仕事ができないくらい痛めつけられるなら、それでいい。オレがこいつの毒を食らったって、最後まで足掻いてやる。

 母さんを殺して、智奈を狙うやつなんだから。


「どうした? 何かあったか?」

 オレの、今までと違う気迫に秀架は眉を顰めた。


 このクズペテン師が。


「てめえだろ。てめえが母さんを殺したんだろ!」


 オレの言葉を理解すると、秀架は人が変わったように、嬉しそうににやりと口角をあげる。

「ようやく気付いたのか。どこで知った。親父さんか?」


 オレの体術による攻撃はクイに弾かれるが、その合間にあらゆる水、風、土の魔術を使って秀架に攻撃を繰り出す。


「ちょっと、目の前の敵ちゃんと見なさいよ」

 またクイに丹田を狙われるが、それを防いで秀架に水で作った鋭利な針を飛ばす。

 それは秀架の毒霧で防がれた。


「なんか、あの時より体術様になってるじゃない」

 どこか嬉しそうなクイの声。


「こみえ弥那の言う通り、お前の記憶は消させてもらった。良い奴だろう、俺は」

 秀架の言葉に、クイは笑う。

「悪趣味な男」


「てめえ!」

「霧亜!」

 オレが二人に突っ込もうとした時、首根っこを掴まれたように、後ろに引っ張られる。

「落ち着け」

 転移魔術で、能利に引き戻されていた。

「あいつは、何なんだ。何でそんな攻撃したがる」


 能利の言葉に、オレは玄武のせいで見た夢のような出来事を思い出す。

 母さんの苦しそうな声。今まで忘れていた、忘れさせられてた、最期の声。


「あの男は、許さねえ。あいつは、母さんの仇だ。今、あいつらに智奈も狙われてる。絶対……絶対殺す」


「……そうか。あいつらも来るぞ」

 

 能利が顎で指したのは菅野家族だ。三人は、四神が現れたことに驚いていたが、オレたちに意識を変えたようだ。


「ヒトは本当に生き急ぐな。いいぞ。納得いくまでり合え」

 玄武が言う。


 こんな四神が集まった所で戦闘開始なんて、ラストステージもいいとこだ。


「霧亜が死んじゃったら、願い事は誰か別の子に叶えさせてあげるわよ」

 朱雀が高く笑い声をあげて言った。

 縁起でもない。


 菅野に構ってる場合じゃないくらい、今は秀架をどうにかしてやりたい。


「殺したら、ただの救済だぞ」

 能利が、変なことを言う。

 顔を見ると、伏し目だった琥珀の目をこちらに向けてくる。

「殺すな。ギリギリまで追い詰めろ。腕や足の一本くらい奪ってやれ。ただ、殺すな。あいつと同じことはするな」


 あいつと同じこと。

 あいつを殺したら、オレみたいなのがまたできる。クイがそうなるかもしれない。

 そうだな。


「霧亜、俺たちはあの家族をなんとかするから、お前はそっち行け」

 オレが、秀架しか睨んでないことに諦めをつけたのか、能利はそう言ってオレの背中を叩いた。

「さんきゅ」

「ラオ、行けるな?」

 能利の言葉に、ラオは大きく頷く。


「よし、踏ん張るぞ。ナゴとクズネは智奈を守れ」

 能利に言われ、獣化した二匹は頷き、まだ玄武に精神を連れ去られているオレの妹の盾になって立つ。


 オレたちを間に挟んで前に秀架とクイ、後ろに菅野家族が立っている。

 オレは秀架たちを向いて、能利とラオは菅野親子を向いて、背中合わせになってる。

 観戦者は四神御一行。申し分ない豪華な観客だ。


 誰も喋らない沈黙が流れた。


 誰がスタートを決めたわけでもなく、全員が一斉に、向かうべき相手へと硬い湖を蹴り出す。


 水が、炎が、衝突して突風が吹き荒れる。雄叫びが渦巻く。


「俺を殺しても、こみえは他の殺し屋を雇うだけだぞ」

「それでもてめえは許さねえ!」


 クイの動きが、見えるようになってた。

 秀架の毒も、水と風で吹き飛ばせた。

 あとは、致命傷を与える勇気さえあれば。


「霧亜!」

 遠くで、戦闘をする能利とラオの声がした。


生命せいめい禁術・炎貫えんかん穿孔せんこう

 菅野の声。


 その場に、赤い閃光がほとばしった。眩しくて目を細める。


 生命禁術なんて、初めて耳にした。

 魔術学校の授業の中でも、重要な内容だったからか、クラス全員で、サダンに教わった魔術の一つだった。

 人を殺すためだけに行われる、五行においてそれぞれある禁術。

 そのうちの一つ。テストに出るから、覚えてただけの言葉が、実際に耳に聞こえるなんて。


 はっと、秀架とクイが、動きを止めた。

 これはチャンスと思って二人に攻撃をしようと魔力を練っても、何故か魔術が発動しない。魔力が切れたか。それじゃあ、と体術で二人に攻撃しようとしても、身体が動かなかった。


 なんでだろうか。

 まあ、二人も攻撃してこないし、よく考えよう。


 そんなゆったりのんびり考え事をしていると、後ろから菅野の嬉しそうな声がする。

「やった! やったあ! これで壮介に会える!」

 飛び跳ねて、母親に抱きつく菅野。


 ああ、良かったな、菅野。お前、本当に壮介のことしか話しないな。


 それにしても、能利たちまで攻撃やめてるじゃんか。ビックリした顔でこっち見やがって。

 ちゃんと、あの強そうな家族の相手してくれよ。オレはクイと秀架にかかりきりなんだから。


 突然、目眩めまいがしたように、天地が逆転した気分になった。平衡感覚がつかめなくなって、オレはその場に後ろへと倒れ込んだ。


「霧亜!」

 誰の声がわからない。


 誰かの叫び声が、遠くなる耳に聞こえてくる。

 なんでだろう。

 状況を把握したくて目を凝らしても、視界が暗くなっていく。


 後ろに倒れて、打った頭が痛くないのもおかしい。


 手足を動かそうとしても、動かない。


 なんだか、全てが無になった感じだった。


 オレ、一体どうしちまったんだ?


 そんな気分のまま、だんだんと眠くなって、こんな大事な戦闘中のはずなのに、オレは目を瞑った。

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