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混血の兄妹 -四神の試練と少女の願い-  作者: 伊ノ蔵 ゆう
第2章 四神 ー4玄武
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4-7 霧亜と喜べぬ再会

「知り合いか?」

 能利の言葉に、オレは頷くことしかできない。


「あいつら、政府のバッジ付けてる。魔術師たちは()()だよ。体術師は、薬漬けだ。三人とも、政府のあやつり人形の駒だ」


 ラオが言った。

 父親が政府に収監されているから、わかるんだ。そして、いつ父親が、政府によってああなってしまうかもわからない。


 待って。待ってくれ。

 菅野は、見廻にこっちの世界に連れ去られたんだ。魔力か体力のどっちかを抜かれて、家族で平穏に過ごしてたんじゃないのか?


「霧亜君だ」

 菅野はにこりと微笑んだ。

「壮介は? 元気? 私ね、壮介に会えなくてとても寂しいの。私、これが終わったら、壮介に会いに行けるの」


 ラオが、オレのパーカーをひしと掴んだ。

「霧亜、あの子、薬も打たれてるよ。あの子も混血なの? 薬は、体術師にしか効かないんだよ」


「霧亜君を殺せばねえ、壮介に会わせてくれるんだってえ!」

 嬉しそうに叫ぶ菅野は、母親の魔術によって後ろの爆風で加速をつけ、父親と共にこっちに急接近してきた。


 ラオが、父親の攻撃に合わせて拳を叩き込む。

 能利が、魔術で周りの岩を砕き割って母親へ投げ付ける。

 オレは向かってきた菅野の攻撃を避けて背後に回り込み、首を掴んで湖に叩きつけた。


「ロクリュ! 智奈の傍にいろ!」

 オレが叫ぶと、白虎を抱えたロクリュは慌てて智奈の隣にうずくまる。


 菅野は、大人しそうな、壮介の後ろをいつも付いて回っていた時の彼女とは似ても似つかない表情と叫び声を上げて、攻撃をしかけてくる。


 公園での菅野への恐怖は、もうオレの中にはなかった。あれから、どんだけ色んな有り得ない敵と戦ってきたと思ってんだ。


「ロクリュ!」

 新たな声。


 一同が声に反応してそこを見ると、湖のふちに、裸足で布を頭に巻き付けた女、クイがいた。


「こんな所にいたのね」


 クイの言葉に、誰かがため息をつく。


 まずい、智奈を狙う奴らだ。

 智奈の傍にいねえと。


「もう、いらない人多すぎよ! 見てるのも疲れちゃうわ。わあが連れてく」


 智奈の近くで立ち上がり、声を上げるロクリュ。白虎は、驚きの顔でロクリュを見上げている。

 すると、今まで固くオレたちが戦闘を繰り広げてもビクともしなかった湖の凍った水面が、ロクリュの足元だけぐにゃりと粘土の高い油のように曲がり出す。

 その場に智奈に寄り添っていたナゴが、慌てて智奈の噛んで獣化し、智奈を抱えて飛び退く。


「きりあ、あきのちな、みんなもよく頑張ったのよ」


 そう言いながら、ロクリュは白虎と共に湖の底へと吸い込まれていった。


「ロクリュ!」

 オレと能利とラオの声、そしてクイの声も重なる。


 声を上げた全員体術の力があるからか、一瞬の間でロクリュが消えた場所へと集まる。

 真っ黒な湖は、既に硬い面へ変化していた。


「見えなくなっちゃった」

 ラオが、両手をついて湖の底に目を凝らす。


 能利は火力の強い炎をぶつけてみているが、溶けることも無くなんの変化もない。


「お前がなんでここにいるんだよ」

 オレが食ってかかると、クイはにやりと笑って近くに倒れる智奈を見る。

「追ってきたんだけど、まさか政府の追っ手も来てるの? 私が政府の人達殺しちゃったせいかしら」


 クイのにやりとした笑顔で、オレは合点がいく。

 クイが、政府のやつらをショーロの街で殺した時だ。

 あの時、政府の奴らに喧嘩を売ってたのはオレで、目をつけられたんだ。そして混血だということもバレた。


「こっち向いてよ霧亜君!」

 オレたちの頭上から、菅野とその父親、それに母親の火球が降ってくる。


 オレは智奈を抱えてその場から飛び退いた。


 その時、甲高く、蛇のガラガラ音のような音の混じる咆哮で、湖全体が小刻みに震えた。

 耳が痛くなるほどの高音で、その場にいた全員が顔を顰めて耳を塞ぐ。


 地面がずしんと一度揺れた。


「白虎は無事届けられた」


 声が、湖全体に広がる。

 湖の中央に顔を向けると、四つの強い光がオレの目を潰しにかかる。

 光に慣れると、そこには全ての四神が姿を表していた。

 青い光を放つ、湖全体に戸愚呂を巻いて、辺りを宝石のようにキラキラと鱗が照り、顔だけ持ち上げて空に浮かせている青龍。

 赤い光を放つ、岩場の高さの同じくらい背が高く、翼を広げると湖の半周は隠れるのではと思うほどの朱雀。

 白い光を放つ、岩場の一角に堂々と君臨する、黒い塔で命を全うした先代と同じ大きさの、若々しい出で立ちの白虎。

 そして、湖の真ん中に黒い光を放ってそこに在るのは、岩も一瞬で砕きそうな鋭い口を持った亀に、蛇が巻きついた姿。玄武だった。亀とその上にある蛇の顔の二つに睨まれているようで、否応なしに誰もが萎縮する。


「暁乃一族の者、ご苦労だった」


 玄武が喋った。

 言葉の一音一音が、ずっしりと耳から頭に抜けて腹へ落ちる音。男女の区別がわからない、重なる声。穏やかでゆっくりな声なのに、まるで、遠くから特大のスピーカーを使って大音量で叫ばれているかのような声。


「四神の腕試しもよく、くぐり抜けたなあ。立派立派」

 玄武が笑うごとに、その場の湖が揺れた。


「お前らといれて楽しかったぞ」

 快活な若者の声。それが白虎の声だって気付くのに、だいぶ時間がかかった。

 あんなに可愛かった赤ん坊の白虎が、こんなうぇいうぇい言いそうな若者になっちまうなんて。智奈が起きてたら悲しむぞ。


「すごいな、大集合じゃないか」


 声がした。

 つい最近、ついさっき、聞いた声。


 クイの傍に、秀架が立っていた。


 オレの腹の中は一気にぐるぐるとひっくり返る。


 母さんを殺した張本人だ。

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