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混血の兄妹 -四神の試練と少女の願い-  作者: 伊ノ蔵 ゆう
第2章 四神 ー4玄武
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4-1 霈念と政府からの刺客

———— Heinen



 淡い風に揺れるメネソンの草原。

 そこに立つ黒いコートの男、霈念の姿がそこにあった。

 丁度、霧亜と智奈たちが、獣化動物たちに乗ってメネソンの地を出発した頃だった。


 霈念を取り囲むのは、四人の男女様々な人間と呼べる何かだった。

 内、二人は背中辺りから黒いもやを発生させている。第一の世界のとある公園で、智奈と霧亜が対敵していた、菅野もも子と同じさま()()だ。しかし、菅野もも子と大きく違うのは、彼らにとある目的を持つ意識があること。

 一方もう二人は、完全に薬漬けで、体力、パワー共に増強された体術師だ。霧亜が、政府の人間と一悶着を起こした時に、賞金目当てに霧亜に向かって行った体術師の一人が飲んでいた薬。


「邪魔をするなら殺すぞ、魔術師」

 体術師の一人が、視線が定まらない千鳥歩きで、霈念に脅しをかけてくる。

「“暁乃霧亜”を捕まえるのにも邪魔だ」

「殺してしまえ」

 亡者となっている魔術師の二人が、口々に言う。


「薬漬けの体術師に、意識のある亡者か。政府も卑しいことするね」


 この、人間の傀儡かいらいとなった魔術師と体術師は、とある人間を拘束、或いは抹殺せよ、と洗脳を受けた、政府からの刺客。


 霧亜がショーロの街で、政府の若造二人に対して大暴走を繰り広げた結果、クイが介入し、政府の男たちを殺してしまった。

 その殺人が、霧亜によるものだと認識され、追っ手が放たれたのだ。

 霧亜を追おうとするこの追手の姿を確認した霈念が、攻撃を仕掛けたことで、この状態が出来上がった。


「俺と弥那の息子だもんなあ。ついに俺と同じく政府に追われるとはなあ、全く」

 腰に手を当て、余裕そうにふうと霈念は息をつく。


 薬漬けの体術師の二人が、一気に霈念に近づき、一人の亡者が針状になった砂の嵐を空から霈念に仕掛ける。


「きっと子供たちはさ、俺がこんなに頑張ってるなんて知らないんだろうさ」


 体術師の攻撃が当たる直前に霈念は姿を消し、体術師二人は互いに攻撃が当たる。移動した場で、霈念の発生させた風が吹き荒れ、土の属性である亡者が放った空からの砂を吹き飛ばす。

 霧亜の弱点である土の性質の亡者を、しっかりと放ってきている。


「まあ、子供たちに俺が暗躍してるって知られるのも恥ずかしいことではあるんだが」


 霈念は、攻撃を当て合い、怯んだ体術師たちの足元に向かって火を放つ。火に二人は悶えるが、素早く動いて火を消す者、発汗した汗を多量に分泌させ、燃える表皮を鎮火させる。

 もう一人の亡者が、雷を呼んでいた。こちらは木の性質の魔術師のようだ。

 霈念は地面に手を当て、地面下の土から鉱石を集めて鉄を作り出し、高い避雷針を地面に突き刺す。霈念に向かっていた雷は角度を変えて霈念の刺した避雷針に落ちる。


 それを見た亡者たちはたじろいだ。

「木に火に金?」

「まさか、全て使えるのか?」


 霈念は異論がないと言葉で言う代わりに、鉄の避雷針を風で冷やし、水を発生させると魔術師二人の足に水の弾丸を放つ。太腿に命中し、魔術師たちは崩れ落ちて身悶えた。


「ただ、政府に目を付けられるとかなり面倒なんだよなあ」


 霈念は、コートの中から取り出した紙を草原にばら撒いた。その紙には、クイ、秀架と戦闘した時と同じような魔法陣が描かれている。クイの身体を硬直させた魔法陣もあり、異なる魔法陣もある。

 刺客である四人全員の近くにも、魔法陣の描かれた紙が落ちる。


「ていうか、政府にバレないように今までやってきたのに、霧亜が智奈を迎えに行こうとするのは想定外なんだよ。せっかくサダンに任せたのに、あいつ、放任主義にもほどがあるだろ」


 霈念に近付こうとした、炎で焼けただれた体術師は、身体を硬直させる魔法陣を踏み込み、動けなくなる。体術師にゆっくりと近付く合間に、亡者たちによる土と木による風の攻撃があったが、小さな虫を叩き落とすかのように手を振り、弾き飛ばした。


「こんな弱いやつら、多分霧亜も倒せちゃうと思うけどなあ。今は能利くんも一緒だし」


 硬直する体術師の胸に、いつの間にか出現させた杖を押し当てる。

 霈念の足元から肩ほどある長い杖には、至る所に紙が貼り付けられ、様々な魔法陣が描かれている。持ち手に近い杖の先は、霧亜の持つ杖と同じように丸く変形していて、六芒星が彫り込まれている。


「汝の魂に救済を。息子をとっ捕まえようとしてるんだったら、容赦はしないからな」


 霈念の杖が、ズブリと体術師の胸に刺さる。


生命せいめい禁術・土中葬斂(そうれん)


 体術師から杖を引き抜くと、杖の先に心臓がついて出てきた。その心臓を霈念は素手で掴む。手の中で、脈拍の早い心臓が、波打っている。

 杖を地面にトン、立たせると、体術師の足元からボコボコと土が盛り上がり、体術師を土中へと引きずりこんでいく。

「いやだ、いやだあ!」

 体術師が滑稽なほどもがき、土を掴んで足掻あがさまを、霈念は静かに見据えている。

 体術師の頭がすっぽりと土の中に収まると、霈念は自分の手に持つ心臓を握りつぶした。


 血だらけのふう、と息をつく。

「杖も出して必殺技みたいに言うの恥ずかしいんだよなあ。流石の俺でもこれは言わなきゃできないんだけどさ」


 人を殺す禁術を見て、残りの魔術師二人と体術師は、一目散に逃げようと地を蹴った。魔術師二人は、手負いの足でなんとか逃げ仰せようと必死になっている。


 霈念は、手に持つ杖を投げ槍のように構える。

生命せいめい禁術・土中葬斂(そうれん)!」

 勢いよくそう呟くと、大きく振りかぶって杖を投げ飛ばした。

 真っ直ぐに飛ぶ杖は、体術師の胸、そして魔術師二人の胸を貫通し、ブーメランのように霈念の元に戻ってくる。


 その杖には、彼らの異常なまでに速く脈打つ三つの心臓がくっついている。それを霈念が地面につけると、それぞれの足元から、土が迫った。慌てて逃げる体術師のスピードにもしっかり土が追いつき、地面へと引きずり込んでいく。


「汝らの魂に救済があらんことを」


 地面に三人が頭まで埋まると、霈念は杖にぶら下がる心臓に火をつけた。

 土中からも、最後の叫喚が聞こえてきそうなものだったが、草原は静かに平穏を取り戻している。


 残っているのは、戦闘の跡の焼け野原と、何本も細長くくゆる煙。



 静かな惨状の真ん中に立ち尽くしていた時、物音が聞こえた。その物音は、天高い空からだ。

 霈念は顔を上げ、目を凝らして見てみる。


 豆粒のようにしか見えなかったが、それが自分の子供とその御一行であることは、瞬時に理解した。

 おそらく、白虎を攻略したのだろう。


 大きな白い光を放つ子供が一番に落ちてくる。それを、霧亜の獣化動物である八咫烏やたがらすのアズが急降下して追いかけている。

 その上には、一人で落ちる息子と、おそらく上に二人ほど乗せているナゴ。


 霈念は手を伸ばし魔術範囲を測ると、落ちてくる全員を目の前へ移動させた。自分の姿は悟られないように、気配を消しておく。


 霧亜たちが拾った謎の少女ロクリュが抱きしめていた白い光が、小さな白い虎へと変化する。なるほど、やはり白虎の攻略に成功していたようだ。


「玄武はルルソよ。それで最後」


 朱雀の言葉を聞いて、霈念は舌打ちをすると、一瞬でその場から姿を消した。


 目を瞑り、開くと目の前はメネソンの地ではなく、広く広大な砂漠が広がっている。ルルソには、訪れたことがあった。妻の仇を討ちに、こみえ一族を襲撃するために。


 ここに、また来ることになるとは。


 霈念は乾燥した砂漠の空気を吸い込み、大きく吐き出した。

お読みいただき、ありがとうございます


霧亜に放たれていた政府の刺客

最強パパは、息子のためな人殺しも厭わない


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よろしくお願いします。

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