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混血の兄妹 -四神の試練と少女の願い-  作者: 伊ノ蔵 ゆう
第2章 四神 ー1青龍
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1−4 霧亜と青龍

「水の他に木の性質もあるのか。珍しいな」

 男の冷静な声。


 オレの攻撃が当たった感覚はあった。が、女じゃなく、女を庇った男の手だった。掌が、直径二センチほどの穴が開いて、血がだらだらと滴れる。

 オレは、あれを女に放ったんだ。もし当たってたら、本当に死んでたかもしれない。


「クイ、いい加減にしろ。俺は仕事をしに来たんだ。逃げられてるんだぞ」

 男は、庇った拍子に女に言い放つ。

 女は拗ねたように唇を突き出した。

「ごめんなさい」


 と、女はこっちに近付いてきた。筋肉の疲労で動けないオレの前にしゃがみ込み、オレの頭を撫で、外れたマントのフードを被せてきた。

「こんな頭して、杖をあまり振るうもんじゃないわ。フード被っときなさい」

 女はぽんぽんと頭を叩くと、男と共に姿を消した。


 謎の女の行動。混血に見えるからか。こみえの髪の色は目立つ。混血なんだけどな。


 しばらく、息を整えるのに時間がかかった。あんなに動けなくなるまで身体を動かしたのは初めてだ。体術師との接近戦なんて初めてだ。能利よりも、洗練されてて、確実に経穴を押しに来てた。もし一発でも当たってたら、身体が動かせなくなってたかもしれない。

 全力で治癒に魔力を当てて、なんとか立ち上がる。


「旦那あ、大丈夫ですかい」

 いつの間にか落っこちてたのか、近くの茂みからアズがひょっこり出てきた。

「ああ、ごめんな」

 まだ震えるアズを、再びパーカーに引き入れる。


「あいつら、智奈さん襲ってたんすよね」

 パーカーの中でアズは再び震え出す。まだ、謎の威圧は消えてないみたいだ。

「ああ」

 親父の言ってた、こみえ一族から智奈を守れって、このことなのか? なんで、こみえが智奈を襲う? 自分の一族なのに。


 とにかく、あいつらはまだ智奈を追ってる。ナゴがどこまで逃げられるかわからない。

 魔力索敵を森にまた広げて、微弱な智奈の魔力を探す。魔術師でも体術師でもない智奈を探すのは、結構神経集中しないと見つけられない。ナゴと一緒にいる智奈を見つけた。そこに、もう一つ大きな魔力。もうあいつら追い付いたのか。


 オレは見つけた方に走り出した。もう一度、手足に加速の魔術をかける。


 加速をつけてだいぶ走ったところに、さっきの三人組の気配が近付いた。バレることは承知で走り込む。

 そこにいたのは、地面に倒れる智奈と威嚇を見せるナゴの姿。その前に立つ男女と女の子。


「智奈!」

 叫ぶと、三人組は振り返った。

 その隙に、ナゴは智奈のマントを咥えると放り投げて背中に乗せ、全速力で走り去る。途中、智奈がもぞもぞとするのが見えた。まだ生きてる、良かった。


「クイ、追え」

 男に言われ、クイと呼ばれた女は頷く。


 オレは智奈を追われる前に、地面を蹴ってクイの前に立ちはだかる。

 思ったより背の高い女で、百六十五あるオレより高そうに見える。


「もう追わせねえぞ」

 オレの言葉に、クイはさっきと同じく口角をあげてにやりと笑みを見せる。

「生意気ね」

「子供いじめて楽しいかよ」


「あの子が何をしたのかは知らないが、殺しの依頼が来たからこうしてるだけだ。子供は家に帰ってろ」

 男が言った。


 依頼……こみえから依頼された? 親父の言ってたことは本当だったんだ。智奈の命が危ない。本当に、狙ってるやつらがいる。


 クイはオレから一旦飛び退き、一気にこちらに近付いてきた。その時だった。オレとクイの間に、突然大きな雷が落ちた。

 突如、空の雷も風もぴたりと止む。しんとその森が空気を張りつめたように静かになった。


「調停者か?」


 辺りに轟音が轟き、地鳴りのような声が聞こえてくる。


 目の前に、蛇のような目玉があった。

「うわ!」

 オレは驚いて尻餅をつく。


 それは、青い鱗、白い髭、長く大きな立派な角、ギョロリとした金色の眼、大きく長い身体は森のあちこちに手足が伸びている。


 アズが、パーカーからするりと降りると、オレは何もしてないのに勝手に獣化した。大きな羽を広げて、頭を垂れる。アズの羽根は小刻みに震えていた。契約者との契約を通り越して獣化させる力があるなんて。


 後ろの茂みから姿を現したのは、ナゴだった。ぱちくりとオレとオレの前にいる青い龍を見ると、ひゅっと息を吸い、前足を出して頭を垂れる。

「天の四霊に栄光あれ」

 ナゴの言葉に、青い龍はゆっくりと頷いた。


 ナゴでも、頭を垂れ、賛美の言葉を口にする。オレの脇汗と冷や汗が、多量分泌された。


「りゅうだー!」

 三人組の、お子様が声をあげた。


 龍はぐるりと後ろを振り返り、クイたちがいるはずの所に顔を向ける。

「何をしている」

 怒りを込めた一言。腹の底から恐怖を抱く声。


 きゃあきゃあ騒ぐ旺盛な女の子以外は、声が出ないようだった。龍の身体で何も見えないけど。

「かっこいいねえ、きれいなりゅうだねえ」

 女の子の声。


 龍はため息をついた。

「悪いな、人の子ら。こいつは私たちの代替えの儀式を担う者だ。その女子おなごは調停者ではないが、殺したらこいつが仕事をしなくなりそうでな。止めさせてもらった」

 よくわかってるじゃん。


「四神って、本当にいたのか」

 男の声。さすがの男も、声に震えが入っている。


 これが、青龍せいりゅうだ。思ってた数倍も大きくて、思ってた数倍重々しい。声が、いくつもの太鼓を生で聞いた時のような、腹に響く声だ。


 青龍はこちらに顔を向き直した。

「調停者、ご苦労だった。視覚を混乱させるこの森に翻弄する調停者がほとんどだが、殺し屋に狙われる者は初めてだ」

 にやりと笑った、気がする。

「残念ながら、今回は私ではない。他を当たってくれ」

 そして、あっさりと言われた絶望的な言葉。


「代替えの四神が、どれなのかわからないのか?」

 あわよくば、一匹目に聞いて次で終われると思ってたんだが。

「私たちは、あまり干渉しないのでな。誰が死にゆくのかは知らん」

 と、青龍はオレに近付くように顎で指す。

「鱗を一枚剥がせ。これが、青龍に面晤めんごした証となる」


 オレは言われるがままに、青龍の首元の鱗を一枚指にかける。鱗ったって、一枚がオレの掌くらいでかい。恐る恐る剥がさせてもらうと、ペリッと気持ちの良い音をさせて剥がれた。一枚板の宝石のような鱗は、オレのペンダントに吸収されるようになくなった。


 また、青龍は三人組に首を向ける。

「この調停者が、全ての四神を回るまで、この娘を殺すのは待ってもらえるだろうか」

 頼んでいるようで、圧倒的な威圧。いいえと言ったら、今この瞬間で殺されそうなほどの威圧。


「わかったよ、りゅうさん!」

 女の子が唯一、声を出した。

「ロクリュ!」

 クイが慌てた声を出す。

「だって、きっとりゅうさん、いうこときいてくれないよ」

 全てを知っているかのような女の子の声に、大人二人は声も出ない。


「四神は、調停者に選ばれた一族の者に儀式を執り行ってもらわなければ代替えができない。それを妨害するのであれば、こちらもお前たちの障害とならざるを得ない」

 青龍の声は、決定事項をただ詠むような言い方だった。その場にいた誰もが、ただ頷くしか無かった。

お読みいただき、ありがとうございます


遂に現れた青龍

そして目当ての四神ではなかった

次に霧亜たちが向かうのは?



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よろしくお願いします。

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