休日活動のないサッカー部
「……それで引き受けちゃったんだ?」
呆れを強く含んだ口調で涼子は言った。
「……それ、絶対に校長に嵌められてるよ」
ため息を吐きながら、涼子は続けた。
「……けど、俺のやり方でやって構わないと言ってもらってるし……」
だから、朝練や土日は極力活動しないようにしようと思ってるんだ。
涼子のご機嫌を窺うように続けようとした声は、段々と小さくなった。
「土日に活動しないサッカー部なんて無理に決まってるじゃん。聞いたことないよそんなの!」
確かに聞いたことがない。
だが、時代は教員のブラックな職態に同情的だ。
土日に活動しない方針の部活がこれから増えていくはずだ。
うちの学校でも新しい部活のスタイルを見せれば、右ならえする教師が他にも出てくるはずだ。
僕の考えに涼子は呆れ顔で異を唱えた。
「子供達からも保護者からもクレームが出て、隼君炎上するよ。第一一生懸命取り組んでる生徒達を見捨てるような事、隼君には出来ないでしょ」
そんな事はないと、口に出そうとした否定の言葉は即座に発することは出来なかった。
休日まで部活をする必要はないというのは、僕の本音だ。
土日返上で部活に拘束されては、教師はほとんど休みのないとんでもないブラックな仕事となってしまう。
学校の授業終了後に様々な取り組みをして勉学だけでなく心身ともに色々な経験をし、発育を促すのが部活の本来の目的のはずが、大会等が増え、土日をフルに使って行われるものになってしまっている。
しかし、子供達は一生懸命取り組んでいるだけで、全く罪はなく純粋なものだった。だからこそこのようなブラックな就業形態が成り立っているのだろう。
「うっ。それを言われると自信ないんだが……」
途端に弱気な発言をする俺に涼子はじとりと冷たい視線を向けた。
「まあ、どうなるか分からないけど、引き受けた以上はちゃんとしないとね」
諦めたように深いため息と裏腹に頑張ってと発破をかけられるのだった。
「いや、そこは校長とも話は済んでるし大丈夫だよ」
実際、僕が部活に追われて休みのない生活を送るようになれば、家庭の事では涼子に多大な負担を強いてしまうことだろう。
彼女との夫婦生活を大事にしたい僕としては休日は家庭を大切にする時間にしたいのだ。
「隼が私との生活を大事にしてくれてるのは分かるんだけど、まずはサッカー部を実際に見てみたら?」
予め決めてかかってるけど、部員の子達だって当事者で被害者なんだからね。と、涼子は諭すように僕に言ったのだった。