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7/9

7 十三歳

 ゲーム本編まであと二年。




 ここで改めてゲームについて覚えていることをまとめておく。

 本当ならどこかに書き残しておきたいところだが、誰に見られるかわからない文章を残すのはリスクが高いので断念した。




 メインストーリーの終着点は大雑把に言えば【黒十字】の撃退。できれば殲滅が好ましい。

 そのためには攻略対象者と接触を重ねながら情報を収集する必要がある。


 攻略対象1。

 アエラ・ルドヘンデ・アイン。我が國アインの第一皇子。銀の髪に紫の瞳の人形めいた美しさをもつ青年。人あたりのよい腹黒枠。序盤からヒロインと仲良くなるが、本性を見せるのは大分後半になってから。恋を自覚したらガンガンいこうぜになる。

 婚約者はカーティ・ルド・シオル。

 本編開始時の年齢は十六歳。ヒロインのひとつ年上。

 現在は十四歳。着々と腹黒キャラに育っていっている気配を感じるが、私にはあまりその顔は見せない。なんとなくペット的な可愛がられ方をされている気がする。優しくはないけど、甘くはある。ただし私限定らしい(兄曰く)。


 攻略対象2。

 エルゼ・サナ・シオル。シオル侯爵家の嫡男。ちょっと暗めの赤い髪に緑の瞳の、どこか少年っぽさの残る顔立ちの青年。

 第一皇子の側近で、常に一歩引いたサポート役。最初はあんまり意識してなかったけど、イベントをきっかけに少しずつ距離を詰めていくタイプの攻略キャラ。優秀な姉にコンプレックスのあるすこし病み要素を持ったキャラだったはずが、今やただの苦労人ポジション。皇子に遠慮して身を引こうとするようなイベントがあったような気がするが、今の二人の関係を見ていると、そんな遠慮をするとは全く思えない。理由があれば別だけど。

 婚約者はなし。

 本編開始時の年齢は十六歳。ヒロインのひとつ年上。


 攻略対象3。

 ユーリ・アズフォルト。皇國騎士団長の三男。頼れるお兄さん。私とは直接の接点がないので今なにしているかは不明。姉とはそれなりに仲が良いらしい。

 婚約者はなし。

 本編開始時の年齢は十七歳。ヒロインのふたつ年上。


 攻略対象4。

 ウィルト・アスク・ルルガット。辺境伯の嫡男。女嫌い。めちゃめちゃ美少年。年下なのでワンコ枠かと思いきやツンデレ枠。…いや、どっちも兼ねてたかもしれない。ユーリと同じく接点がないのでどういう人かはわからず。

 姉が三人いる。女嫌いになったのは姉の影響。

 名ばかりの婚約者がいる。

 本編開始時の年齢は十四歳。ヒロインのひとつ年下。


 攻略対象5。

 サザール・ミッド。男爵家嫡男。純粋に良い人枠。良い人過ぎて逆に攻略が難しいと評判だった年相応のかっこいい子。爽やかスポーツ少年要素がある。男兄弟で育ったため気が利かないのがたまにきず。

 婚約者なし。

 本編開始時の年齢は十五歳。ヒロインと同い年で、唯一の同級生。



 攻略対象外の登場人物。

 その1。

 カーティ・ルド・シオル。シオル侯爵家の長女。

 平民として厳しい立場に立たされるヒロインを助けてくれる。貴族と平民を差別しない中立ポジション。

 第一皇子ルートだと、ヒロインに婚約者の座を譲ることになるさばさばした姉御ポジション。

 私の姉。


 その2とその3。

 リンダとラネット。ヒロインと同じく平民の同級生。ヒロインの友人になる。


 その4とその5。

 第一皇女アルテミナと第二皇子フレイアの双子の姉弟。

 アエラの妹と弟。

 どちらかというとヒロインを嫌う貴族達に思想が近いが、表立ってヒロインを害するようなことはない。嫌悪するほどではないけど好きにもなれない、みたいな感じ。


 他にも登場人物はいるけれど、対【黒十字】のストーリーで絡むのは多分この辺り。恋愛という側面で見た時にはほかにも関係するキャラはいたが、一旦割愛。

 誰がどういう情報を持っているかやルート分岐については忘れてしまったので慎重に見極めなければならない。



 だがその前の大前提。ヒロイン視点のゲームをベースに考えて良いのかという疑惑。

 ファルサと話をしていて気付いたことその1。

 そもそもヒロインはこの世界に産まれているのか?

 ゲームでプレイヤーが操作していたヒロインは、果たしてこの世界に産まれているのだろうか。外部から操作するためのアバターとしての存在でしかなく、この世界にはそもそも存在しない人間という可能性だってありえるではないか。

 ―――と気づいて項垂れた。

 完全に盲点だった。

 攻略対象キャラやライバルキャラが皆実在しているのでヒロインの存在について今まで疑ったことがなかったのだが、確かに私はヒロインについて何も知らない。名前はユーザーが決めるのでわからないし、生まれた場所すら知らない。生家についての描写はあったけど、街の名前は出てこなかった。つまり、実在するという証拠がない。

 迂闊だった……と思わず頭を抱えたけれど、今気づけただけ良しとしよう。するべきだ。そうだ、何事も前向きに思考を進めないと、立ち止まったってそれこそ無意味だ。

 この世界と前世の世界がどう関連しているのかはわからない。だからシナリオを重視しすぎないように気を付けて、参考情報程度の認識にする。

 いたらいいな、あったらいいな、くらいが無難だろう。

 寧ろヒロインが出てくる前に全部片づけてしまってもいいのでは? とファルサには言われたが。それが出来るのなら私の知らないところで片がついているはずだ。なのに、終わっていない。未だ皇家は【黒十字】を見つけるに至っていない。

 証拠? 証拠はないが推測できるだけの状況証拠はある。

 それは、魔動物と魔植物の目撃情報と撃退数の数だ。

 急激な変化は起きていないが、毎年毎年確実に増えている。これは統計情報が取られているので間違いない。

 魔の動植物が増えるということは、魔の要素が増えているということ。

 魔の要素が増えるということは、負の感情を持つ者が増えているということ。

 自然災害が多発したり不作が続いたりといった民の平穏が危ぶまれる事実があればそれも自然なことだが、ここ数年この國ではそうした災害の例はない。ならば、人為的な誘導によるものと考えるのが自然。

 増減することはあれど、増え続けることはそうそうない。



 で、気付いたことその2。

【黒十字】の目的がわからない。

 ゲームで敵対者としてその組織が出てきたものの、彼等の意図は明らかにされていなかった。國を滅ぼすことが最終目標なのか? それともそれはただの通過点に過ぎないのか。はたまた、國の顛末はどうでもよくて民が混乱するような事態になればいいのか。

 個の欲を満たすことが目的なのか、もっと大きな大義でも抱えているのか。

 私が知っているのはヒロインの恋愛を主軸に置いたストーリーでしかないので、正直【黒十字】という組織についての情報は殆どない。

 カルト教団という表現が正解なのかも実はよくわからない。ただ、ゲーム情報を鵜吞みにしている状態だ。

 万が一彼等が悪意を持った集団ではなかったとしたら、どうなのだろう。

 正義とは勝者を指す。これは前の世界でも今の世界でも概ね変わらない。

【黒十字】に正義がないと誰が言えるのだろうか。

 と、思い至ってぞっとした。

 敵、と、味方。その表現だって元はといえばゲームの、というか、ヒロインから見た位置関係でしかない。例えば今の私の視点で見た場合でも、彼等が悪であるという確証はないのだ。


 ただし、私の家族や友人の敵であることは間違いないので。これは一旦保留とした。



 なんて、ただの言い訳だ。


 考えるのが怖いから逃げただけ。

 ゲームでの私。つまりリゼッタは確かに存在していたはずだ。兄や姉の言葉のすみっこにいたから。でも、ヒロインの視界には入っていなかった。それが偶然なら、それでいい。でも、と。一度考えてしまったら止まらなかった。

 もしもゲームの時間軸では既にそこにいないとしたら?


 ああ。

 嫌だな。

 怖い。

 考えたくない。


 けど、考えないのも怖い。


 矛盾している。

 自嘲しながら、否定しながら、だからこそ一番嫌なことを考えてしまう。


 例えば既に死んでいるケース。

 例えば他國に留学にでも行っているケース。

 例えば。




 ヒロインの敵対者側にいるケース。




 ぞわりと粟立った肌。震える身体。恐ろしさに自身を抱きしめると、更にそれを抱き込むようにファルサが私を包んでくれた。何も言わず。何も聞かず。宥めるでもなく、ただ、世界から隠すようにそっと抱きしめてくれた。






 気付いたことその3。

 私は果たしてモブなのだろうか。


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