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カイン編2

「初めに、私とローゼマリンの婚約破棄を認めていただきたいのです」

「そう、それで?」

「聖女アリスと婚約を結ぶことを許していただきたい」

「そう、良いわよ」

「えっ」


 与えられた好機を逃がさないよう、最初から要求を伝えればあっさりと承諾されたことに逆に驚いてしまった。


「良いわよ、別に。王妃がローゼでなければならないなんて契約はないし、ましてや次期王妃が聖女ともなれば彼女以上に民衆の支持は高いでしょうから」


 そんな私を横目で見つつ、冷静に語る母上。


「勘違いしないで頂戴ね、わたくしは決してローゼが嫌いな訳ではないわ。寧ろ今でもわたくしは彼女が一番王妃に相応しいと思っているし、個人的な意見を述べるのであれば彼女に王妃を継いで欲しいもの」


 随分とあっさり婚約破棄と婚姻を呑んだ母上に、これまでのローゼマリンとの付き合いは上辺のものだったのかと邪推した私を咎める言葉と鋭い視線。


「でも、今のローゼに王妃は務まらない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()揺らぐ王妃なんてお話にならないもの」


 ()()()冷徹な言葉。


 覚悟とも言える母上のそれには私もアリスも何も言えずにただ一人揺るがない王妃を見つめる。


「ローゼが王妃として立てないのならアリス、貴女が立つことになるのは必然でしょう。()()()()()()()()を放り出していた貴女ならば、ねえ?」

「母上それは、」

「カイン様」


 厭悪を隠しもせず、報告に挙げられているであろう過去を引き合いに出して詰るのを止めようと口を挟めば、当の本人であるアリスがそれを制した。


「聖女の覚醒を隠していたことは事実で、申し開きもありません。しかし義務を放り出していたとはどういうことでしょうか。知らなかったとはいえ結果としてわたしは在学中、魔力の奉納を怠ったことはないのですが」

「……あら?」


 毅然と母上に食って掛かるアリス。そこにローゼマリンが重なって見えるのは気のせいなのだろうが、とにかく何か思い違いをしている母上は首を傾げて聖女を見た。


「教会から聖女アリスは魔力奉納をしたことがないと報告を受けているのだけれど」

「そんなことはありません、わたしは当初()()が何だったのかは知りませんでしたが、在学中は徴収石に魔力を込めて教会に送っていたので」

「あらあらあら?」


 この国に恵みを与えて下さる女神様へ感謝を伝えるため、神に愛された聖女は教会で祈りを捧げる。それを怠っていたことに母上は嫌悪していたようだが、そもそも魔力を込めた徴収石を教会へ送っていたとなれば話は変わって来る。


「あら……成程ね。さては陛下、隠していたわね」


 アリスの話を聞き、何か思い当たった母上はぶつぶつと呟いて思考を整理している。


「ごめんなさい、わたくしの勘違いだったわ。咎めるべき相手はもっと身近にいたわ。本当にごめんなさい」

「いえ、結果論でしたから」


 そして暫く、思考の海から帰って来た母上が謝罪を述べれば首を振ったアリス。


「とにかくローゼとの婚約破棄、そして聖女アリスとの婚約は認めるわ。話はそれだけ?」

「いえ、あともう一つ」

「何かしら?」

「ルノーウィル王子と、共犯であるその彼の処分について」


 当初と打って変わり、少し柔くなった対応。一つ目の要求が通ったことに安堵する間もなく話を終えようとする母上を引き留めて、アリスは一番通したいそれを切り出した。


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