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悪役令嬢が救われるのならヒロインだって救われていいと思う  作者: 高槻いつ
番外編

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アリス編4

「……ローゼの、ためか?」


 唐突なわたしの要求に戸惑いながらも、少し残念そうな口振りで意図に触れるカイン様に頷く。


「そうか」


 一度きつく目を閉じて、暫しの間。


「それが君の望みだというのなら。それが罪滅ぼしになるというのなら、父上と母上を全力で説得してみせるよ」


 好きだった、未だに嫌いになれない、変わらずに綺麗な青い瞳と再度向き合う頃には違う感情を滲ませてわたしの要求を受け入れてくれた。


「カイン様一人に全てを任せるつもりはありません。わたし(聖女)の価値、それと引き換えに、とした方が話も通りやすくなると思うので」


 ここ数日、色々な人から話を聞かされて、漸くわたしはこの『聖女』という本当の価値の意味を知った。


 そして今楔が打ち込まれつつあるこの状況下ではその価値は更に高まっていているということにも、気が付いていた。


「……何処まで、望むんだ?」


 そんな風に政関連の話をも含めたことを前提に話をしているからか、カイン様は一瞬だけ寂しそうに目を眇めてはすぐに窓の外へと逸らし、話も逸らした。


「許されるところまで。最低でも、ローゼマリン様のために譲歩出来ないものを得るまでは」


 だから、都合良く見えるような表情は何も見なかったことにして、わたしは絶対に譲れないものを手にするまでは粘ると答える。


 本当はその先、ローゼマリン様が憂う全てを払ってあげたいけれど、きっとそれは望まれないし許されないだろうから。


「わかった、父上と母上に早急予定を調整していただけるよう申し出てみよう」


 こちらの真意を正確に汲み取ってくれるカイン様の返答に頭を下げ、用件を済ませたのだからもう立ち去ろうと踵を返したところで、ふと思い止まる。


 こういったとき、高貴な方の前から去るときは退出の許しが出るまで待たなければならないのだっけ、と。


 学園では身分差で対応を変えないように、という一応のルールがあったからこんなことはなかったし、そもそも友達はおろか知り合いさえいなかったわたしにはこんな機会なかった。


「……はは、大丈夫だよアリス。君は権力に囚われない女神の代行者なんだから、そんなことは気にしなくて」


 もう背を向けてしまったのだから今更だろうかとも別のことを悩み始めて佇んでいれば、おかしそうに笑う姿が簡単に想像出来るカイン様の声が掛けられた。


「……聖女になっても、そういうところは変わらないな」


 それを許しと捉え、一度振り返ってから再び身体を折り姿勢を戻したとき。


 良く知った顔で微笑む彼と視線がかち合い、息が止まる。


「お二人の時間が取れた際には報せを遣わせる。……またな、アリス」


 浅い息のままカイン様に見送られ、懐かしくも思える別れの言葉を反芻しながらわたしは部屋へと戻るのだった。


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