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悪役令嬢が救われるのならヒロインだって救われていいと思う  作者: 高槻いつ
番外編

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ローゼマリン編2

「僕を、見て。ローゼ」


 そうやって私を射抜く眼は、私と同じ光を湛える紫。癖のない艶やかなそれは、いつだって何をしてもくるりと回ってしまう私が羨む綺麗な青。端正に整う顔にはいつも柔らかい笑顔を浮かべていて、そんな表情からは想像できないくらい回転の速い頭には、ポーカーでさえ勝てない。


「君と同じ十八年を過ごしてきたよ。いつも傍にいて、いつも君の破天荒に振り回されて、いつも君を見続けた僕は、本当にただの登場人物なの?」


 そう私に尋ねてくる彼とは、語り切れなどしない記憶が確かに存在する。


 ゲームの説明欄に出てくるようなあらすじも、人物紹介も、きっと自分なりに話せるくらいには彼について知っている。

「ローゼ。ねえ、ローゼ。僕はさ、君が好きだよ。ローゼは、僕が嫌い?」

「……そんな訳、ないじゃない」


 きらいであるはずがない。いつも私の味方をしてくれて、いつも私の突飛な行動を笑って面白がってくれて、いつだって私を好きでいてくれた彼を嫌うなど、あり得もしない。


「そうだよね。それならその感情は、誰に向けられているものなの?僕じゃ、ないの?」


 そうだ。彼は、私が悩む度にそっと背中を押してくれるように一言だけくれる。最後は自分で選べと、そう言いながらもずっと横で待ってくれていたセルター。


 ああ、そうかと、漸く自分の中で消化が出来た


「……そう、そうね。ゲームのセルターは、私のことを励ましてくれたりなんて、しないわよね」

「うん」

「貴方みたいに、私を受け入れてくれたりなんか、しなかったでしょうね」

「うん」


 いくらこの世界がゲームに似通っていたって、セルターが私の幼馴染みであることは変わらない。共に過ごした日々も、ワンロールで描かれるような人生じゃない。それなのに、一括りに()()()()だとしてしまうのは、単純にゲームの記憶があるから。


 けれど、女神様が言ったように()()がただゲームに似通っただけの現実世界なら、セルターは、ただの私の幼馴染みのセルターなのだ。


()はさ、誰かに強制されたりしてこの場所にいる訳じゃない。()が、選んだんだよ」


 セルターは、笑う。胡散臭いと冷やかされるその整った顔で、優しく緩むその瞳に、私を映して。


「ローゼ。ぼく、はさ。きみが、すきだよ」


 そして、私の知らない甘い声で、そう呟いた。



「……セルター」


 彼の、その想いに。私は、答えられない。けれど、そもそも彼自身がそれに答えを求めている訳ではない気がして、ただ戸惑う。


「ローゼ、もう時間だよ。戻らないと」


 しかしそんな私を特に気にする様子もなく、まるで授業が遅れるからと急かすようにとんとんと自身の腕を叩くセルター。


「ばいばい、ローゼ」


 面会の終了を知らせる衛兵が地下牢へ下りてきて、それを察したセルターは別れを告げる。


「……セルター」


 お父様へ無茶を言って作ってもらった時間は、もう引き延ばすことも出来なければ再度作ることも出来ないのに。


 また、も、さようなら、も、どちらも伝えられない私はただただ鉄格子を握り締めて、意味もなく彼の名前を呼ぶ。


「わたし、は……」


 何を、言いたいのかさえわからない。けれど、何か言わなくてはと空気を食んだ唇。何も考えず、ただ空白を埋めるために吐いたお別れは、自分でも思いがけないものだった。


「さみしい、よ」


 決して、そんなことを伝えたかった訳じゃない。けれど、するりと口から滑り落ちていった言葉は取り返す間もなくセルターの耳に入ってしまったようで、ぱちぱちとこちらを見返す眼とかち合った。


「……そっか。()を見てそう言ってくれているなら、申し訳ないけど嬉しいや」


 そして閉じられた瞳は、静かに言葉を紡ぎ出した。


「ごめんね、ローゼ」


 結局、きちんとした別れもないままに終わりを告げる衛兵に地下牢から連れ出され、それが私とセルターの最後の会話になった。


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