アリス編1
その日から。ローゼマリン様と別れたその日から、わたしの日常は大きく変わった。
王城の部屋の一室を宛がわれ、専属の侍女を宛がわれ、専属の騎士も宛がわれる。
傍目から見れば大貴族の令嬢のような環境で、わたしが身を置いてきた環境には程遠いものだった。
自分でやることもなければ、何かしなければならないこともない。
宛がわれた部屋は王城の一角で、そこに閉じ籠るまま、わたしの日々は紡がれていた。
ローゼマリン様はどうしているのだろう、と。
セルター様はどうなるのだろう、と。
ルノーウィル王子は、斬首刑か、と。
一切の情報が入って来ないこの部屋で出来ることは想像と、憶測と、懐古だけ。
豪奢なドレスに着飾られるまま、わたしは窓辺で目を閉じる。
思い返すのはそう、ここへ来た初日に言われた、陛下の言葉だ。
「君には聖女としての免罪がある」
ぼうっとお城に案内されるや否や、着の身着のままで謁見した王様からは、そんなことを言われた。
「君が聖女として名乗りでなかったこと。また、第二王子であったルノーウィルと共謀を図っていたこと。それらは全て伏されて、君は聖女と崇められる」
王座で脚を組み、数段高い所にいる王様のその声は、良く響く。
人払いをしてあるからといって、髄分端的に物申すものだと、下げた顔で笑うわたし。
「その代わり、君の便宜はこちらで図ろう。不都合があれば、善処はする」
そんなわたしの心情を知ってか知らずかそう言い放ち、わたしを下がらせた。
なんてことない、望まぬ肩代わりの代償を要求されただけ。
この身朽ちるまでただここで過ごし、聖女として扱われるだけ。
ローゼマリン様がカイン様へ嫁げば少しは変わるかもしれない、なんていう理想しか抱けない環境で、暮らすだけ。
楽しみでもなんでもない日常を、わたしはこれから過ごす。
願わくば、優しいローゼマリン様がこれ以上傷付かない結末であることを、祈る。
ふっと目を開けて現実へ戻ってきても、そこには変わらない景色が映るだけだった。
しかし、そんな風に窓の外を眺めていたわたしの所へセルター様が極刑に処される、という報告が入ってきたのはわたしがここへ来てから一週間が経った日の、ことだった。