それからの話
馬車へ乗り込み、アリス様と私は対面に座る。
ミヤがここにいないというとは御者台の、パルスの方へいるのだろう。
「ローゼお嬢様。出ても?」
「ええ」
前からパルスの声がして、私はそれを肯定する。
かたこと動き出した馬車の中で、私は改めて、アリス様へ話を切り出す。
「…………話してくれる?」
「はい」
対面のアリス様は頷き、ぽつぽつ誘拐された時のことを語り出す。
「ローゼマリン様に見送られた後、馬車は一度この国を出て、森の街道に行きました。そこで一度休憩を取ったんです。その時にミヤさんから頂いた飲み物に眠り薬が入っていたようで、わたしは馬車が引き返したことも、わかっていませんでした。
ずっと寝ていたみたいです。
目が覚めたらミヤさんが目の前にいて、わたしは手足を拘束されていて、ああ、彼女が殿下の手足だったのだなと、気付きました。
…………わたしは聖女の力で、拘束を破りました。そして、殿下の掛けられた呪いを解こうと、しました」
流暢に話していた状況説明が詰まった。アリス様は気まずそうな顔をして、私を見ていた。
「…………」
完全に止まってしまったアリス様。どうしたのだろうかと問い詰めていいのか悩んでいると、アリス様は下を向き、また、話し始める。
「解けたんです、呪いは。…………でも、跳ね返った」
ぎゅう、と、握り締められたアリス様の手。私は座席から立ち上がり、アリス様の横に座ってその手に触れる。
「呪いはわたしと、ミヤさんの身体から出ていって、黒い塊になった。それに段々と力を奪われるのがわかったから、油断してたんです」
アリス様の手は冷たくて、握り込まれていなければ震えていて、先程まで私を慰めてくれていた姿とは随分、うってかわった。
「ぱちりと、跳ねた。わたしに飛んできて、それはわたしに返ってくるはずのものだったんです。…………でも、ミヤさんが、庇ってしまった。聖女の力で強制的に眠らせていたから、その力が弱まったことで目を覚ましてしまった。どうしてわたしを庇ったのかはわからないけれど、わたしの身体を引いて、自分が前に出て、その黒い塊を、受け止めた」
なんとなく、その姿がイメージ出来た。いつも小言がうるさいけれど、なんだかんだ付き合ってくれて、なんだかんだずっと守ってくれていた彼女の、姿だったから。
「…………そっか」
だからただそれだけが、単純な思いだった。




