聖女
「自分達で選んだことです。ローゼマリン様に、非などありません」
するりと目元を撫でた指とその言葉は、ずっと抱えていた罪悪感を掬い上げるように私へ馴染む。
わかっている。
ここがゲームの世界だったとしても、私が原因で全てを狂わせたのだとしても、その選択肢を選んだのは各個人であったのだと、わかっている。
アリス様がルノーウィル王子と手を組んで聖女であることを隠そうとしたのも、ミヤが私を裏切って何かを得ようとしたのも、ルノーウィル王子が他人を貶めて王に這い上がろうとしたのも、カイン王子が私と婚約破棄をしたのも。
全ては、個人で決断したこと。
そう受け止めるだけで、良かっただけのこと。
わかっていると、そう強がりたいのに、何も応えられないまま、アリス様を見つめる。
お前のせい。私のせい。
脳内で重ねる言葉は全て、自責の声。
ぐるぐると声がずっと脳を駆けずり回って、消えない。
そんな私を、アリス様は抱き締めた。
「ローゼマリン様は何も、悪くない」
「羨んで、けれども何も成し遂げられない弱いわたし達が、悪い」
「ミヤさんも、殿下も、カイン様も、わたしも。貴女のせいにしなきゃいけない程、弱いだけ」
「それでも認められない弱さを、貴女のせいにしただけ」
「だから貴女は何も、悪くなんてない」
彼女の肩に額を預けて、甘い免罪の声をただ聞いていた。
けれど、消えない。
責める声が、詰る声が、ずっとずっとアリス様の言葉の裏側にいる。
「もう、許して上げて」
聞き流していた彼女の声が、ふと耳に止まった。
「ローゼマリン様はもう、自分を許して」
…………許す?
何を許せばいいのだろう。何か、赦せないことなどあっただろうか。
アリス様の言葉の真意を探れなかった。だから自然とその続きに耳を傾げていた。
「存在する価値なんて考えなくていい」
「女神様は貴女にそんなことを考えさせたかった訳じゃない」
「ただ、娘と幸せそうに笑っていた貴女の人生がより良いものであって欲しいから、この世界に招いただけ」
何を、言っているだろうかと、思考が停止した。
今まで考えていた全ての出来事が脳内から吹っ飛ぶくらい、アリス様の言葉は衝撃を与えた。
「…………女神様?」
アリス様から離れてまじまじと顔を見る。通常と大きく駆け離れたその違和感を、口に出す。
「ひさしぶりね」
アリス様の赤い瞳は、神々しく輝きを放つ金の、神の色に染まっていた。