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終幕

「アリス様は……」


 何処にいるのだろう。


 結局、ルノーウィル王子からアリス様の場所を聞き損ねた、ということに気が付いたのは魔術紙が床に落ちているのを見たからだ。


 そっと屈んで、それを手に取る。



 綺麗な、几帳面な、美しい幾何学模様。


 誰もが彼を天才だと囃し立てたその魔術の才能は私よりもずっと上で、彼が王族でさえなければ、騎士や、フリーの冒険者としてだって活躍出来たであろう。


 王族の象徴である碧眼を持たなかった故に王族である意味もなく、かといって平民に落ちる程恵まれていないわけでもないルノーウィル王子の境遇に哀れみは覚えない。


 ただ、残念だったなと、他人事のような感想が溢れる。


「もう片方の紙が他の人間の魔力に染まれば……」


 そうして意味もなく彼が残していった魔術紙に魔力を込め、紙に残る魔力残滓を全て塗り替えて、()()()()にする。


「番でなくなった転送陣は、意味を成さない」


 たったそれだけのこと。


 魔術紙を塗り替えたのがアリス様なのかどうかはわからないけれど、それでも、呪いを掛けられた人間(セルター)が生きているということは、アリス様も生きているという証明になる。


 もし単純に、ルノーウィル王子が呪いの効力を発揮していないとかだったら、救いはないけれど。




 でもなんとなく、それはないような気がした。




「…………癒しの、加護を」


 ふわりと緑色の加護が空気に溶けて消える。


 それはきちんと、相手に加護が届いたという紛れもない事実。


 掛けたい相手に加護が届かないとぱちりと弾けて、自分に戻ってきてしまうから。


「………………癒しの加護を」


 だから一緒にいるであろう二人目へ、姉のような存在のあの子へ、加護を願った。


 けれど新緑の色をしたそれは一瞬揺蕩い、ぱちりと、弾けてしまった。


「………………」


 どうせ戻ってきたって彼女の処遇はルノーウィル王子と同じ道を辿るだろう。


 でも、それでも、話がしたかった。


 ただ顔を合わせて、叱って…………なんて、そんな強欲染みたことを考えていたから、叶わなかったのだろうか。


「女神様は、何をさせたかったの」


 はしたないと罵られようとカーペットにお尻を付けて蹲る。


 膝に額を押し付けて、ぎゅっと目を瞑る。それでも滲んだ涙はドレスに染みを作り、ひたひたと目元に張り付く。



 貴女の好きなように生きて良いと送り出したあの女神様。


 ねえ、女神様。


 身近な人間を殺してここに存在する私に、罪はないと仰るのでしょうか。



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