悪役令嬢の対面3
応接間へ入って何をするのかと疑問だった。こんな逃げ場の無い場所へ何故入ったのかと、疑問だった。
しかしそれは、応接間に入るや否や懐から取り出した紙を見て理解した。
「…………転送、陣」
掌に収まる程度の小さな紙に描かれた二重の円。意味がある幾何学模様がいくつも重なった魔術陣。
一枚の羊皮紙に自分の魔力を込めて作り、魔術紙というものに変えてから半分にちぎって使う。
片方は行きたい場所へ最初に置いておき、もう片方は自分が持っておく。
そうして出掛け、帰りたくなったら持っていた魔術紙にまた魔力を込める。
そうすれば、対の紙が置いてある所に戻れるという、陣。
「流石だね」
それに気が付いたことにルノーウィル王子はまた嬉しそうに目を細め、それをふりふり振った。
「この先にアリス・セントレナも、君の侍女もいる。君が大人しくしてくれるなら手は出さないからさ」
そう言って彼は私に背を向ける。私を拘束する訳でもなく弱点を晒したその背に、傲慢を見た。
公爵令嬢という立場を取り上げれば何も出来なくなるだろう、自分がなんとでも出来るだろうという、傲慢さを。
「さ、行くよ」
転送陣を起動させるのは簡単だ。ただ魔力を込めて、ついでに連れていきたいモノがあるのならそれに触れていればいい。
だから彼は私の手を取って、魔術紙に魔力を込めた。
魔術紙は一瞬の発光の後足元に転送陣が広がって視界は映り代わる。
はず、であった。
「…………ん?」
天才の短所とは自分が失敗するなど微塵も思っていないことである、と、過去の友人が言っていた。
例え前触れに何かが起こっても自分が間違えているなんて思わないから、気にしないのだと。
「大人しくしてくださいませ」
彼が動揺している間、私は彼がホールに広げていた警戒陣を魔力をひたすらぶつけてぶち壊すという力業を敢行していた。
直に使用人が集まり、倒れているセルターが見つかり、必然的に、私達も見つかるだろう。
「何故だ」
ただの紙切れと化した魔術紙を手から落とし、彼は呟く。
私は何故陣が発動しなかったか確信めいた心当たりがあったけれど、それを言うつもりは毛頭ない。
精々、悩めばいいのだ。
「ローゼ!!」
バタンッ、と盛大に扉が開かれ、若干壊れかけている扉は見ないことにしつつ、駆け寄ってきたお父様の抱擁を避け、お父様の後ろに隠れてルノーウィル王子と距離を取った。




