悪役令嬢の対面2
「あれ?思いの外驚いてないんだね」
けろりと笑うその人は王家直属の金髪で、けれども忌み嫌われる赤い目は、笑っていない。
「予想してたって感じ?」
飄々と馴れ馴れしく、普段の姿からは全く想像出来ないその軽さに私の意識は若干遠退く。しかしここは死地であると再度確認し直し、きゅっと結んだ唇を開く。
「…………ルノーウィル王子」
第二王子、その人。
第一王子のカイン様よりも全てにおいて勝り、教会を管理する政務に携わり、私とカイン王子を蹴落とすメリットを持つ、人。
「いやぁ、まさか貴女がここまでアリスに入れ込むとは思わなかったよ」
けらけらと笑い、淀む赤い目。生理的に受け付けないその姿に私はまた一歩下がり、拳を握る。
聞きたいことは多々ある。それでも何より優先するべきは、彼の拘束。
何故か誰一人として先程からここを通らず、ルノーウィル王子が公爵邸に紛れ込んでいると気付いている気配もない。
助けは見込めず、ただ、一人で彼をなんとかしなければならない。
「動くなよ」
女神特権さえ使えれば、そう考えた所でルノーウィル王子から制止がかかる。私に手のひらを向け、直ぐに何かに移れるよう魔力を練っている。
「ローゼマリン・フォン=ヴェスター。君が僕に着いてくるのなら、ここには何もしない。セルターも、返そう」
どさりと音がした。
ルノーウィル王子が応接間の扉を開けた。そして、倒れ込んだだれか。
そちらを注視すれば、腹部から血を流して、息も絶え絶えな、セルターがいた。
「…………セルター!」
悲鳴に似た声音で、名を呼ぶ。それを聞き取ったルノーウィル王子は、さぞ嬉しそうに微笑む。
「死なせたくないだろ?なら、こっちに来い」
セルターを蹴飛ばし、呻くセルターを見下ろすその人は、私が知っているルノーウィル王子とは明らかに違う。
「ろー、ぜ」
選択肢など限られている今、従うしかない今。一歩踏み出そうと脚に力を入れたとき。掠れた声が、私を引き留めた。
「おわった、から」
ぜえ、ぜえ、と、息を吐くことでさえも困難な程に弱っているセルターが、そう呟く。
「うるさい」
「っ、」
そんなセルターが気に入らなかったのかもう一度蹴飛ばし、セルターは完全に意識を失ったようだった。
「やめて!!」
咄嗟に出たその声に満足げなルノーウィル王子。
大人しく彼の傍に寄り、彼が応接間へ消えたことを見送ってからセルターを一瞥して、口の中で消えるくらいの女神の祝福を掛ける。
止血が出来る程度の、祝福にしかならないけれど。
それでも死んでしまうことはないし、私が何処か出たという証拠にもなる。
催促され、それに従うまま、私は応接間の扉を潜った。




