黒幕とは
若干残虐描写が混じります。
苦手な方は話を飛ばして頂いても問題ないです。
「さて」
僕は手を叩いた。表と裏を切り替える為の一種の行動の一つのようなものではあったが、それは今では完全に癖となっていた。
仕事場の一部屋。その一角で、僕は椅子に座って足を組む。
「殿下。本日はどのようなご用件で?」
そんな僕の前には、脂汗を滲ませて媚びた顔で僕にお伺いを立てる豚がいる。
兄上があんな馬鹿なことをしなければ、こいつが僕にこんな顔をすることもなかっただろう。
継承権を持たない、ただの人間だと嘲笑っていたのだから。
「ああ、そうだね。前に用意させたモノは揃っているよね?」
「勿論でございます、殿下」
悪くなった顔色に僕は口角を上げ、それならいいんだと彼を蹴飛ばす。
「そう、それならもういいよ。君は用済みだ」
「は……?」
頭を踏み、ばたばたともがくでっぷりと肥えた身体。目に悪いなぁなんて思いつつも、僕は置いた足に力を込めた。
「ああ、きったねえな」
ただの靴だけど、こんな価値のない存在の為に使うのは些か勿体無かったかもしれない。
軽く舌打ちをして、たった今肉塊になったそれを、それだけを、燃やす。
何処にも引火させず、ただゴミだけを燃やす芸当は兄になんか出来ない。一流の魔導師、魔術師だって、出来るやつは限られているのに。
これ程優秀な僕が、何故、何故、愚かな兄になんかに負けるのだろうか。
たった二つ年が違うだけで、何故、無能な人間の下に就かなければならないのか。
納得がいかなかった。天才と囃し立てる人間が陰では継承権を持たない王子だと馬鹿にしてることが。
お前らより、何倍も、何百倍も、優れているのに。
「…………まぁ、でも、もう少し、か」
すっかり一人になった空間で、僕は虚を見る。
ローゼマリン・フォン=ヴェスターが場を掻き乱してくれたお陰で少々計画にズレはあるものの、大筋では問題ない。
そうすれば、晴れて僕は王になれる。
「邪魔なんてさせてたまるか」
褒めるだけの両親も、僕を敵視するだけの兄も、継承者ではないと知ったその時から離れていった人間にも。
全ての人間を踏み台にして、僕はのしあがる。
赤い目というだけで継承権を持たせなかった老害達など、全部一掃してやるのだ。
「その為には……」
聖女の死と、ローゼマリンの使用人の裏切りが、必要不可欠。
全ては劇だ。
僕が脚本を書いた、僕の劇。
「楽しみだなぁ」
こつこつと扉に近付き、部屋を出る。
僕がいなくなったその部屋は何もない、ただの、教会の一室。




