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悪役令嬢が救われるのならヒロインだって救われていいと思う  作者: 高槻いつ
本編

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33/81

母と侍女長

「そう……わかったわ」


 音もなくカップはソーサーの上に戻され、お母様のその一言で話は終わる。


 微妙に開いた間に若干の気まずさを感じるのはきっと後ろめたさからであり、どうにもそわそわしてしまう。


「ローゼマリン、行っていいわよ。支度があるでしょう?」


 と、私がそわそわしているのを見計らってか退室を促すお母様に一礼して、サロンを後にする。




「……はあ」


 最愛の娘がいなくなったところで、母であるリーチェルはテーブルのカップを端に寄せぐでりと上半身を乗せる。


「ローゼマリン……」


 昔から賢い娘ではあった。五つの時には更にそれに拍車が掛かり見たことのない、想像したこともない商品を次々と開発。


 聡く、美しく、他者への思いやりを教える前に自ら身に付け、年相応に過ごす機会を中々与えられなかった。


 豊富な魔力量、聡明な人柄、底を尽きない発想力。


 それらは、他国の王族までもが欲しがるもの。


 故に、何処へ出しても公爵家の娘と、大商会の稼ぎ頭だと穿った目で見られてしまうローゼマリン。忖度なく共に時間を過ごせる同年代といえば従兄弟であるセルターと身内のシリウス。そして、少し年上であるローゼマリンの侍女、ミヤくらいだろう。


「あんな顔されたら叱れる訳ないじゃないの。そう思うでしょ?」


 ここへ呼び出したとき、リーチェルはローゼマリンの行動の迂闊さを叱ろうと思った。けれども、生き生きとした、そして楽しそうなローゼマリンを見て、何も言えなくなってしまった。


「奥様、だらしがないですよ」


 部屋に入ってきたアーセナルがリーチェルの丸まった背を叩き、姿勢を矯正。


「お嬢様のお転婆っぷりは奥様似でしょうね」


 すっかり冷めた紅茶を淹れ直しくれたアーセナルのその言葉にリーチェルは真っ向から反対していく。


「違うわ!あれは父親の影響よ!」

「どうでしょうねえ、奥様も旦那様とそれはそれはお手の掛かることでしたからねえ」


 目尻に皺を寄せ笑うアーセナルと、先程の姿とはうってかわって少女のように反論するリーチェル。


 こんなところまでお嬢様は奥様にそっくりだとアーセナルは更に皺を深く刻ませて給仕に仕える。


「ねえ、アーセナルは聖女を見たのよね?どんな子だったの?」


 母としての疑問。


「そうですねえ、ミヤが付いていましたから私はちらりと見た程度ですが……」


 そんな問いにアーセナルは少し手を休め、朝方見掛けたアリスの印象をそのまま語る。


「お嬢様が笑顔を向けられる方です。悪いお方ではないと思いますよ」

「そう」


 アーセナルは二度手を動かし始め、リーチェルは白いカップに手を添えて満足そうに微笑んだ。





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