お母様のお叱り
「ローゼマリン」
「はい」
「わたくしは確かに貴女に外出することを許可しました」
お母様自ら注ぐ紅茶の色は琥珀に透き通り、お母様が好んで使う茶葉の匂いが立つ。
「ですが、聖女を連れて戻るとは想像を遥かに越えていてお母様はとても困惑しています」
「……えっ」
てっきりお叱りモードかと思った私は茶化したような口調で紅茶を注ぎ続けるお母様をぱっと見上げ、ふるふると口を開く。
「叱らない、のですか」
「今代の聖女を見つけ、保護した貴女を叱る理由があるの?ローゼマリン」
罪人として捕らわれていた子を聖女として王城に返す方が問題よ、とお母様は微笑み、てずから注いだ紅茶のカップを私の前に置き、席に着く。
「公爵家の令嬢を亡き者にしようとした人間が実は聖女でした、なんて、どうやって説得するつもりなの?」
「真犯人がいるはずなのです、お母様」
真犯人さえ、黒幕さえ見つけられるのなら、後はアリス様を被害者にして巻き込まれただけの聖女なのだと広めればいい。聖女として出れなかった理由は上手く揃えて、これから聖女として民を支えていけばいい。
「アリス様を貶めた人間さえ分かれば、あとは私が後ろ楯となりアリス様を支えられるのです」
その人間を見つけるのが一番の難題ではある、のだけれど。
「そう……」
お母様が紅茶を口に含み、嚥下し、溜め息を吐く。
「アリス様が聖女だということは王家に伝えるのよね?」
「はい。公爵家で罪人を保護していると誤解されるよりは、聖女だと公表して私が証人となる方がまだマシです」
それでも外野からはあれやこれやと難癖は付けられるだろうけど、未熟な聖女が自覚なく貶められ、その罪を晴らそうと公爵令嬢と手を組んでいる。そういうシナリオの方が、アリス様にとってはまだ救いがある。
「ローゼマリン、貴女の利は大きくないのよ?それどころか、貴女が築き上げて来た信用までも落ちるかもしれないのよ?」
「はい」
あくまでも私の庇護の下にアリス様を置く。それは、公爵家は関係ないと明確にするため。何があっても私一人の責任であるという証明。
まともな人間が非難するのは公爵家ではなく私一人。公爵家の名は、傷付かない。
「フォン=ヴェスターの家名には決して傷付けません。必ず、アリス様を聖女として認めさせます」
一早い聖女の発見、保護。それだけで、今アリス様を勝手に公爵領へ連れてきたことは帳消しになる。罪はなくならなくても、そもそもがなければ何も問題ない。
「アリス様は暫く私の別荘に匿います。ですので、ここに戻るのはアリス様が正式に聖女になった頃かと」